第2幕
□虎の道標
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『彼をうちの社員にする』
夜の倉庫に景気良く響いた声は、違えることなくクリスの盗聴器にも届いた。
虎の正体は孤児院育ちの少年の異能力だったらしい。
それにしても、盗聴器を川で流されるとは思わなかった。
クリスの仕込んだ盗聴器の存在に気付いたからか、それとも偶然か。
財布までもが流されたらしいので後者の可能性が高い。
国木田にも盗聴器を仕掛けておいてよかった。
「虎、か」
夜の街を歩きながら、クリスはイルミネーションを反射する川面を眺めた。
綺麗だ。
光はどの国で見ても変わりなく、美しさを見せつけてくる。
あの人と共に浴びた太陽光も、彼らと共に駆けた夜闇の街灯も、光を求め光に縋る人間には心安らぐ輝きだ。
空を見上げれば、星が瞬いている。
昔、船乗りは星を標に海を渡ったという。
光は標だ。
だから人は己の人生を変えた人をも「光」と呼ぶ。
己が目指すべきものも「光」と呼び、進むべき道を示す標とする。
――異能組織に追われているって言ってたけど。
薄暗い廊下で、乱歩はクリスへと問うた。
――その組織の名は?
「……君の道標は見つかったかい」
この世界のどこかにいるであろう上司だった男へ、呟く。
そっと目を閉じれば夜風が頬を撫でていった。
あの高慢な笑みを思い出す。
あの含みのこもった声を思い出す。
金と権力で全てを思い通りにしようとしたあの男を、その眼差しを、思い出す。
「……君が何を為し得たとしても、わたしはギルドには戻らないよ、フィー」
声は夜風に紛れていく。
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