閑話集

□闇に憩いし光の花よ
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後日。

ぶらりと椅子に座って背もたれにぐったりと寄りかかりつつ、太宰は数枚の写真を光にかざすように眺めていた。


「これかなあ、うーんでもこっちの方が……」

「朝っぱらから何をしている」


時間ぴったりに出社してきた国木田が、太宰の席の横へと来て腰に手を当てる。
見下ろしてくる生真面目な顔へ、太宰は両手に扇状に持った数枚の写真を掲げ見せた。


「一枚あげるよ。どれが良い?」

「どれ、と言われても裏面しかわからんが」

「くじ引きだよお。どれが当たるかなあーん?」

「そもそも何だこれは」


言いつつ国木田は律儀に一枚の写真を引き抜く。
ピラとそれの表を見――すぐさま固まった。
おお、と太宰は声を上げる。


「それ、大当たりだよ国木田君! 羨ましいなあ! 今日の運勢は眼鏡が一日中曇らないと見た!」

「何だその地味に嬉しい運勢は。……じゃなくて!」

「おはようございます……何してるんですか?」


敦が太宰の横の席へと座りつつ、太宰と国木田を交互に見遣って首を傾げる。
じゃん、と太宰は手の中の写真を敦に見せた。


「可愛いと思わない?」

「女性、ですか? 隠し撮りみたいな写真ですけど、事件の資料か何かですか?」

「私が撮った」

「ええッ……」


うわ、とでも言いたげな顔をして、敦が上体を遠のかせる。
敦とは逆に、「大変だったのだよ、隠しカメラを三台準備していたのに二台も見抜かれて没収されてしまって」と笑う太宰へと身を乗り出したのは国木田だ。


「どういうことだ太宰!」

「これを見て彼女だと気付く君もどうかと思うけどね」

「説明しろ!」

「うふふ、内緒」

「もしやまだあるのか? 出せ! 全部出せ! 女性を隠し撮りその写真を見てニヤつくなどいかがわしいにもほどがあるわ! 恥を知れ!」

「君のその焦りようも恥ずかしいと思うのだけれど。そんなに見たいならしょうがないなあ、二十万ね」

「売るな!」


ぎゃんぎゃんと二人がいつものやり取りを始める。
戸惑う敦の元に、鏡花がとことこと歩み寄って服を軽く引っ張った。
これ、といつの間にか手に入れたのか国木田が持っていた写真を敦に見せてくる。

めかしこんだ女性が映り込んでいた。
街を歩きながらこちらへと笑みを向けている。
太陽光がカメラに映り込んでいて一部白くなってしまっているが、その中で微笑む女性は神々しくさえ見えた。

金と銀の輝きを灯す亜麻色の髪は緩やかに揺らぎながら風に広がり、柔らかな緑を添えた青の眼差しは光を差し込んで透き通っているかのように見える。
耳元に光る華奢な耳飾りに、清楚な色のシャツが華やかな女性を引き立てていた。
胸より上しか写っていないものの、まるで雑誌の一ページのように被写体が美しく映えている。


「綺麗な人だね」


鏡花に言えば、彼女もまた頷いた。


「綺麗。……綺麗な、光の花」

「え? ああ、うん、そうだね」

「闇の花なんかじゃない」


鏡花は何かを思う眼差しで写真を見つめている。
その様子に戸惑いつつも、敦は鏡花の横顔に優しく微笑んだ。





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「闇に憩いし光の花よ」end.
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