第2幕

□予定という名の台本
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かくしてクリスと国木田による予定外の強盗目撃事件は幕を開けた。


「国木田さんはどうしてここに」


犯人に言われクリスの隣で膝をついた国木田に、クリスは動揺を隠さず問う。


「金を下ろしに。そちらは」

「……お金を下ろしに来ました……」


誰かから突っ込まれることを待っているかのようなこのベタな状況。
ちなみに男は二人。
一人は店員に金を出せと怒鳴り、一人はクリスらを見張っている。


「犯罪多いなあ……」


以前も誘拐に巻き込まれた。
一般市民がおいそれと事件に巻き込まれるなどあって良いものか。
マフィアと挨拶を交わしがてら戦闘ができる時点で察してはいたが、この街の治安はもしかしてかなりよろしくない。


「この間もコンビニ強盗がありましたよね。その犯人でしょうか」

「その可能性はある。が、こうも見張られていると打つ手がない。隙が作れたなら良いのだが……何か策はないか」

「ありません。残念ながら一般人なもので」

「……失敬、そうだったな。社の同僚並に関わる機会が多いからか勘違いをしていたようだ」

「誤解させてすみません」


国木田とは意図して関わっているため、そう勘違いされても仕方ない。


「はい、あの、これ」


緊張と恐怖で涙目の男性店員が、震える手で犯人に鞄を指し示す。
どうやら金を詰め終わったようだ。

今は彼一人しか店にいないらしい。
だとしたらかなりの不幸だ。
見た目も中身も、到底強盗犯に一人で立ち向かえるようには思えない。

男が鞄を奪い取る。
そして二人で店を出ようとした、その足は自動ドアに感知される前に止まった。


「おい!」


鞄を持った男が店員へ声を荒げる。


「サツ呼びやがったな!」


普通呼ぶと思う。
最近のコンビニ店員は研修が行われている。
犯人に知られない方法で市警へ通報することなど、お手の物だ。

しかしここはヨコハマの中心街。
どうやら市警はとてつもなく早く現場に着いてしまったらしい。
見れば確かにガラスの向こうにサイレンの赤色が見える。


「くそッ」


苛立った男が店員に全てのドアに鍵を掛け、目隠しの幕を降ろすように命じる。
予定外はクリスと国木田だけではなかったのだ。


「……国木田さん」

「言われなくともわかっている」


かくして、強盗犯コンビニ立てこもり事件が幕を開ける。




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