第2幕

□爆弾咲く夜
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公衆電話の受話器を下ろし、クリスは手にしていたケータイへと目を落とした。


「……太宰、か」


結局発信器は消せなかった。
が、すでにそれは壊され、クリスは信号を受信できていない。
発信器に気付かれたのならば、目を付けられている可能性が高かった。

どう対策をすべきか。
一番はその懐に入り込むことだろうが、下手をすれば己を晒すことになる。


「……ちょっとしくじったかな」


とにかく、知らぬ振りをして遠くに逃げるより、近くで彼の様子を監視していた方が良さそうだ。
失敗はなかったことにはならない。
なら、それを踏まえて今後の計画を立てる他ない。

電話ボックスから出、大通りを通って探偵社へと向かう。
ヨコハマの中心街はビルが整然と並んでいた。
背の高いそれは小道に影を落とし、街に暗部を作り出している。

日の当たる広い道路は車が行き交い人々が笑顔で歩いているが、少し逸れれば暴力で人を虐げる輩の縄張りへと変貌した。
まさに光と影の両方を内包する街。
どこに危険が隠れているか、わかったものではない。

そう思いながら、ビルとビルの間の小道を横切ろうとした時だった。


――脇道から手が伸ばされた。


人気のない場所へ引きずり込もうとしてきた太い腕を視認する前に、クリスは思案する。

避けることはできる。
相手を叩きのめすこともできる。
しかし、一般人ならば避けることすら無理だ。
余計なことをして目立ちたくはない。

抵抗しないことを決めたクリスの腕が掴まれ、脇道へと引き込まれる。
強い力によろめいたクリスへ、スタンガンが当てられた。
衝撃が全身の感覚を奪い取る。


「ぐ……」


誘拐、か。

相手の意図を察しつつ、クリスは落ちる意識に抗うことなく目を閉じた。




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