book 1

□00
2ページ/4ページ





「粧しこんでんねぇ」
「……」

腹も膨れ心も充たされ。さあいざ図書室へと足向けた先にこの男がいた。とりあえずニマニマ浮かべられた笑みを一刻も早く取り下げて欲しいので冷やかしの言葉には毅然として無視する。

「英国紳士は朝メシに誘われただけでカッチリ決めちゃうもんなの?」
「まるで僕の一日が食事だけで終わるとでも思ってるみたいですね」
「逆になにがあるんさ。」

言われてみればそうである。読書を恰も大事な予定のひとつとして持ち上げ崇め奉り居丈高に廊下を歩みゆく自身の姿を思い出し、羞恥に顔を赤らめる
……訳もなく。態々「ちょっとそこまで」程度の用事に軽いお食事会くらいなら参加できそうな出で立ちをしているのかは無論アレン自身の意地とプライドと見栄っ張りに拠るものなので。そうそう他人に気取られたくはないのだ。

「……お食事会?」
「結局食事じゃんか」
「煩いなぁ」

というかそういうラビこそ一昨日ベルギーから帰還したばかりで手持ち無沙汰も手持ち無沙汰な様子に思えたが、流石に偉く言えた立場らしくブックマン候補としての業務か何かがあるのだと何故か勝ち誇って言われた(シンプルに腹立つ)。それにしては団服を着込んでマフラーも巻き如何にも臨戦態勢ですといった風貌である。怪訝な目を向けたところで飄々と繕われるのは目に見えていたが。


しかしまあ、嫌な予感はしていたのだ。


ラビの周囲で旋回していたゴーレムが不意をついて機械音を発した。変な言い方だが、「何処ぞのパッツンイカレポニーテール"か"から始まって"だ"で終わるいけ好かない野郎」よりも、今日一番ききたくなかった声である。


_丁度良かった 二人とも室長室に来て_





日頃なにかしら自分が良からぬ行いをしていたのなら謝辞でもなんでも甘んじて受けよう。が生憎そんな心当たりはないのでこれはやっぱり神こそが理不尽だと異議申し立てたい。良いことをしたからといって良いことが返ってくる訳でもないのは重々承知している。勿論。

「アレンくん すンごい恐い顔してるよ」
「でしょうね」
「ティム、ご主人の顔記録しとけさぁ」

降り出している小雨のせいでクルクル巻き毛がいつも以上にクルクルしてる若き室長、正式役職名「黒の教団本部長代行監理官兼中央統合参謀司令室室長」コムイ・リー。長たらしい情報量が鬱陶しいという理由で所詮六文字の「エクソシスト」である自分はこの人を飛び蹴りしても許されるのだろうか。

「キミたち朝食は済んだよね?」
「済んでる」
「ええ」
「ならあと十分後に来る汽車でチェコまで飛んでもらうよン」

許される筈である。当然。

「ギャーっやめてアレンくん!?」
「ちょちょちょアレンこの人一応偉い人!」
「なんですラビ離してください」

書類だらけで足の踏み場もない室長室に呼び出され行われることはひとつ、仕事の依頼である。そもそも依頼と呼べるほど強制度が低いわけでもないので我々は一般に任務と言っているが。もう一度言う、仕事である。

「前はこんな突拍子もない招集なかったじゃないですか」
「そんなことはないよ〜」
「今日休みなのに」
「そんなん言ったらオレ一昨日帰ってきたばっかさね」
「しょうがないじゃん、みんな出払ってるんだもん」

悪気なしに軽く言い放ったコムイだが実際人手が足りないのは事実で、リナリーが赴いてから教団内に残ったエクソシストはどう確認しようとも数え間違えることなくアレンとラビの二名のみなのである。つい半刻ほど前に飛び込んできた要請に、対応できるのも必然的に彼らしかいなくなる。

「お詫びと言っちゃなんだけど、宿はそこそこ良いトコ取れたよ」
「食事付き?」
「もちろん!なんと三ツ星!くらい美味しい(ボソッ
「危険度は?」
「現地調査だけでアクマはいないかもしれない(ボソッ楽々プラン!」

「……滞在期間は?」
「1ヶ月」

調子よく盛り上げられた概要で二人は徐々に浮かれそうになるが最後の一言に撃沈する。

((なっが…………))

ともあれアレンの本日の予定は遂に決まった。数分後の汽車に飛び乗り、チェコへ一直線である。


.

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ