TFprime男主夢

□1話-将来の夢-
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愛し子は凛々しく育っていった。
僕が教えること以上のことを知りたいと外に意識を向け、町の図書館で過ごすことが増えたことが寂しい。
それでも愛し子の探究心をすべきだと思い、全面的に協力している。
「ページ先生、いってきます」
今日も悲しいことに一日を図書館で過ごす愛し子に手を振る。僕は愛し子の保護者だからね、これくらいの自立、なんて事ないさ。

ただ愛し子のことだ。変な輩に絡まれるといけないからGPSと盗聴器は持たせてある。指輪型にして右手の中指につけておいたから、多分普通のプレゼントとして受け入れてくれたんじゃないかな。バレたらまぁその時考えよう。

今日も家の掃除をしながら盗聴する。
時々愛し子はぽつりと独り言を呟いているから油断ならない。欲しいものがあれば言いなさいといつも言っているのに中々言わない愛し子のためにも、情報収集は大事なことだ。

ああそれと、盗聴機を通じて世間の話題に触れ始めて早数ヶ月。分かったことは、愛し子のような無垢で純粋な子には合わない世界があることだ。
世間の闇なんぞに汚されてはたまらない。もし愛し子が害を被ったとしたら、僕はまた警察に喧嘩を売ることになるかもしれないね。準備しておこう。



オライオン・パックス。
他でもない私の名前だ。
捨てることなくこのまま使い続けているのは、我が尊敬する師…ページ先生が言った言葉を守るため。

「僕は君を、そのまま愛したいんだ。僕が作った名前だなんて、後ろめたくて呼べなくなってしまう。だから、オライオン・パックスとして、僕の加護下にいてほしいんだ。」

その言葉を聞いた時、嬉しさを感じる反面悲しくも思った。ページ先生に名付けられて初めて、ページ先生の家族になれると思っていたから。
現実ではそんなことはなく、オライオン・パックスを家族として受け入れてくれたページ先生にどれほど感謝したことか。

だから、私は私なりに恩返しがしたいと思ったのだ。

ページ先生はあまり町が好きではないようで、町の外れに家を持つ。最初こそ集団生活が苦手なのだろうと思っていたのだが、時々町に下りて教師をしたり、普段の言動からしてそうではないと悟った。
さらに、こうして図書館に入り浸るようになってから過去の出来事を調べる内に知ってしまったことがある。

ページ先生は、その、やんちゃだったらしい。

殺害こそしていないが、暴力事件は多数起こしていた。それこそ有名な話として出回るくらいに。まぁ、あの目を惹くワインレッドの巨体が暴れ回ったとすれば印象に残りやすいだろう。
不思議と恐怖心はわかなかった。小さいころから優しいところしか見ていないのもあるが、何より私自身が感じていたからだ。
ページ先生の異常なまでの愛情の深さを

事件の詳細を見ると、動機の欄に「愛し子が傷付けられたから」と揃って表記されている。
彼の言う「愛し子」はきっと、私のような者たちのことだろう。そして彼は、「愛し子」を傷つけるような町自体が嫌いなのだろうと思った。
要するに治安が悪いということだ。

私に政治家になる余裕はないし、これ以上ページ先生に迷惑もかけたくない。それに政治家は欲しい情報が手に入らない場合も多いだろう。

だから私は情報系統の職について、世間の闇側から改革を起こしてみようと思い立った。
そのためにも情報が欲しかった。そろそろこの図書館の書物は読み切ってしまうから次の図書館の場所を確認しておかないと。

はあ、とついたため息を聞かれていることに私は気付いていなかった。


「おかえり」
「ただいま帰りました、ページ先生」

帰ってきた愛し子は少し疲れているようだったから、暖かいエネルゴンを差し出す。「ありがとうございます」ふぅと息をついてちみちみと飲む姿にどれだけ癒されることか。

にこにこと見守っていると愛し子はもじもじと何か言いたげにしているので、無言でひたすらに待つ。愛し子は頭がいい…その分口に出すのは大変だろうから。
数分経って、エネルゴンを飲み干してから愛し子は口を開いた。
「なりたい職が、あるんです」
「うん、…どういうものになりたいのかな?」
「できれば…情報系統の職に。情報収集員が妥当かと」
「情報収集…」
それは困るな。闇側に直接関わる職じゃないか。
さらに言うと情報を持つものは悪い輩に狙われやすい。理想とはまさに真逆。ふむ、どうするか

「心配してくれているのは分かっています。ただ、それでも、…っ」
「…オライオンはいい子だね。僕のことも考えてくれている。だから本当の気持ちを、素のまま伝えてほしい」

気まずそうに俯いた顔に手を添えて目を合わせると、しゅん、と眉を下げた愛し子の顔が見えた。きっと心配をかけるようなことをすること自体に後ろめたさを感じるのだろう。本当に良い子に育ってくれて感動してしまうよ。

「わたし、は。」

ページ先生が過ごしやすい世の中にしたいんだ。
調べれば調べるほど、矛盾や理不尽な出来事が目につくし、勿論暴力はいけないことだけれど、ページ先生がしたことは正当防衛に近いものだと思ったんだ。
「オライオン……知っていたんだね」
「…うん、黙っていて、ごめんなさい」
オプティックを伏せて頭をぺこりと下げる愛し子に思わず頬が緩む。おっとだらしないな気をつけねば。
「いいんだよ。その探究心、好奇心は大事にするといい。同時に警戒心も忘れずにいてくれれば、僕はそれでいいよ。」
そう言うと愛し子は安心したように微笑んだ。
うん、笑顔が一番だね

「うん、うん。わかったよ。」
「…、なって、いいのかい?」
かしゃん、と愛し子の頭を撫でるように手を動かす
「ああ勿論。可愛い可愛いオライオンの夢を妨げるだなんて、神をも恐れぬ愚か者のすることさ」
まあ僕は神なんか信じちゃいないが。
「オライオン。君は何も気にせず夢に向かって歩むといい。フォローは僕がしよう。」
ぱあ、と明るくなる顔色。愛し子には明るい顔が似合う。きっと暗い顔も似合うだろうけど、元気に越したことはないのだ。


そういえば、オライオンはまだ機密情報に触れる機会がないから知らないだろうなぁ
僕が起こした事件、全てにおいて本当の第一発見者がいないこととか。必ず相手側が告訴を取り下げていることとか。

大丈夫。
手は汚してないから。


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