無題(仮)

□5:隣町で
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「尾崎」

「おう、武藤か」


盛り上がったアフロヘアーに、武藤が声をかける。
下宿近くの公園で、二人は密かに待ち合わせをしていた


「あの女の事だが」

「あぁ、ちょっと調べたが、中々の有名人だった」


不敵に笑って見せた尾崎は、武藤に自分の携帯を見せた。

「…盗撮じゃねーか」

添付ファイルにはバイクに跨がるあの女の姿。
もちろん視線は此方に向いておらず、明らかに許可を取って撮影されたものではないのがわかる。

「数ヶ月前から隣町で行方不明者が続出してるんだとよ」

「行方不明?」

「家出少女とか、夜に遊び歩いてる学生が被害者らしいぜ」


煙草をふかす尾崎は、そこで一度言葉を切った。

「佐伯 シュウってのは隣町じゃ相当有名らしくてよ、色々噂話が絶えねーらしいぜ」

「例えば?」

「一人でヤクザの組潰したとか、30人病院送りにして病院のベッドが埋まったとか、入学初日に高校制覇とかよ」


半笑いの尾崎につられるようにして、武藤も口の端を吊り上げる


「…嘘くせェな」

「残念ながら裏は取れた。…で、わざわざ此方まで来た理由だが───」


「おー蓮次!」


夜の公園に、太い声が響く。
パッと入り口に視線を向けた武藤と尾崎の視線の先には、サンダル履きの迫田。


「!!…迫田」

「何してんだ?お前ら……」

「……いや、ちょっとな」


目をそらした尾崎に、視線を鋭くした武藤が迫田に目を向ける


「…佐伯と待ち合わせ、か?」

「!」


細い目を丸くした迫田に二人は呆れたように溜め息を吐いた


「相変わらず分かりやすいなお前…」

「迫田…アイツ、佐伯だがよ、隣町じゃあ随分有名人らしいじゃねーか」

「そりゃそうだろうよ、アイツにかなうヤツなんてそうは居ねー」


ニヤリと口元を歪めた迫田の言葉に呼応するように、じゃり、と靴が砂を噛む足音が聞こえた


「へー、嬉しい事言ってくれるじゃん!」

「シュウ!」

「こんばんは、今日はお友達も一緒?ごめん、コーラ二本しか買ってきてないや、教えといてよ〜」


ひらりと手を振ったシュウは、妙に緊張した空気の中でもやはり、へらっと薄い笑みを浮かべて見せた。



(隣町では有名人)








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