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今日は壱馬と二人でHIGH & LOWの映画関連での雑誌の撮影に来ていた。
ずっと憧れていたHIGH & LOWの出演が決まってメンバーや家族から沢山のメッセージ貰った。これだけでも凄く嬉しかったけれどやっぱり壱馬と共にまた演技が出来る喜びは大きかった。
同じグループのメンバーで同じボーカルで同い年、共通点が多くて長い間共に過ごしてきたからこそ良きライバルとしてお互いを高め合ってきたからだ。
けれど、この頃壱馬の目を見ることが出来ない。
あの目に見つめられると心の奥がギュッと締め付けられ苦しくなる。あの低めの落ち着いた声でもっと名前を呼んで欲しいと思うようになった。
この気持ちを言葉にすることは容易だったが北人はしなかった。
いや、今の関係が壊れるのが怖くて出来なかった。
「なあ北人、俺なんかしたかな?」
「…なんで?」
「なんか俺にだけ少し素っ気ないというか。もし言いたいことあれば溜めないで言って欲しいって思って。」
撮影までの間、二人で一つの楽屋を使っていた。二人は会話こそあまり多く交わさないがこの雰囲気が北人は安心できた。すると不意に小説を読んでいた壱馬がそう呟いた。
ああ、本当にこの人はメンバー思いの優しい人だ。人の変化にすぐ気付けて声をかけれる。そういう所なんだよなと改めて感じた。
「多分忙しくて疲れてたからそう見えたのかも、ごめん。」
「そっか。…それなら良かった、ちゃんと休めよ。」
「壱馬こそ。」
たしかにそうだなと、ふはっと笑った。その笑顔でだんだんと顔が熱くなってきた北人はもう重症だ。と心の中で呟いた。
「俺、飲み物買ってくるけどなんかいる?」
「いや、水があるから大丈夫。」
「りょーかい。」
北人は赤くなった顔がバレる前に飲み物を買いに行くと楽屋を逃げるように出た。
そういえば壱馬はダイエット中だったなと快晴の空を見上げながら思い出した。自分にどこまでもストイックなのは見習わなければいけない。しかしそれでいつか壱馬が壊れてしまわないかと不安に駆られた。
しかし、何かあった時は絶対に俺が支えてみせると決意の籠った目で北人はこの青空へ誓った。
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ガチャリと楽屋の扉を開けると壱馬がソファの背もたれに頭を預けて目を瞑っていた。膝には読みかけの小説のページが開いている。
「…壱馬?」
呼びかけても返事が返ってこないことから眠っているんだと分かった。
ゆっくりと音を立てないように近づいていく。そしてまだセットのされていない黒髪を軽く撫で瞼にかかった前髪を分けた。静かな呼吸に愛おしささえ感じる。
「…キスしたら、目覚めますか?」
相変わらずくさい台詞だなと、そして本当にキスをする勇気もない自分を鼻で笑った。こんなだからロマンチストって言われるんだ。
ああ、きっとあのCMでは見事に使われるんだろうなと思いながら。
でもいつか、本当に言えたらいいなと心の中で願った。
┈┈┈┈┈キスしたら、目覚めますか?
この時、壱馬が眠っていたのか北人は知らない。