短編
□酔いどれ気分はそのままで
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「あぁ、おう、悪ぃな…………じゃあな」
スカウターでの通信を終え、ソファに目線をやってみりゃ自然と溜息が出た。
酔い潰れちまったらしい名無しを俺ん家までトーマが運んでくれた礼を今現在まで言っていたが、同時に奴から「襲ったりすんなよ?」と言葉を貰った。
これが警告なのか後押しの言葉なのかハッキリはしねぇが、奴の性格からして前者だろう。(俺はどんな目で見られてやがんだクソ)
「…………おい てめぇ。何杯飲みやがった、んなに潰れるまで飲むんじゃねぇよ」
「ん、……〜 一杯半ぐらい?飲んじゃった」
「はぁ?一杯半だぁ?………嘘だろオイ」
一杯 半という微妙な数字はさておき、二杯すらいかねぇ量で酔うって相当だなオイ。
女と言えど 仮にもサイヤ人のくせして、酒に弱いなんざ情けねぇ……セリパを見習ってほしいもんだぜ。まったく……
「バ〜ダック〜」
阿呆みてぇな言い方で名前を呼ばれて 仕方無しに 何だ と答えてやりゃあ、名無しは嬉しそうな顔をして此方に近付いたかと思えば頭を撫でてきた。
酔っ払いの謎行動に怒るもんも怒れず、結果こいつにされるがままな自分に笑っちまう。
「……今度からあんま酒飲むな、名無し」
……トーマの警告は正しかったのかもしれねぇ。
普段の名無しなら まずしないであろう太腿や首筋が少し見える位には服がはだけている その格好に、自然に目がいっちまう。
いくら普段アホで脳天気で女っ気があまり無いこいつでも、酒に酔って無防備な状態はこうも色気の度合いが変わるものなのかと内心驚いた。
…逆に襲わない方が無理じゃねぇか?……これ?
何も気にする事がなけりゃ、此処でとっくに俺はこいつを襲っていただろう。
だが残念ながら、酔いが覚めた名無しがこの事をトーマにチクるんじゃねぇかって不安があるから上手いこと行動に起こせねぇ。チクられちまったら、後々面倒だ。色々……奴等の話のネタにされるなんざ死んでもごめんだ。
「(…あー、クソッ……)」
「ふふふ〜 バーダック〜」
「……チッ」
こっちの気持ちを知ってか知らずか、先程よりも体を密着してきた名無し。
なんだオイ、それは襲ってくださいって事か?ワザとなのか?
いや、そりゃねぇな。お前にそんなキャラは似合わねぇ。きっと今の俺はでけぇ抱き枕かなんかと同じ扱いなんだろ?わかってんだよクソが。
「ベタベタすんじゃねぇ酔っ払いが。いいから大人しく寝てやがれ!」
「やだ〜!だったらバーダックと一緒にベッド行く〜!」
お前は本当になんなんだ。
どこまで俺を試すつもりだ?
さっきっから絡めとられてる腕は引っ張っても引っ張ってもビクともしねぇ(その気になれば簡単に引き剥がす事なんざ出来るくせにそれをしない俺も大概アホだ)
ギューギューと馬鹿みたいに抱きつかれているお陰で、当たってんだよ。
やたらと柔らかいもんが。
「……てめぇ本当にいい加減にしろ、これ以上その甘ったりぃ声で抱きついてやがると襲っちまうぞ?」
「ふふ、バダにならいいで〜す」
「…………は?」
俺にならいいと。
確かにこいつは口にした。
アルコールの影響で頭がやられちまってる酔っ払いの事だ。もしかしたら本気で言ってるワケじゃねぇかもしれねぇ。
だが、名無しが口にしたその言葉は俺の理性をぶっ壊すには十分過ぎる程の弾丸だ。
もうこの際 仲間達に笑われようが構わねぇ。
善処していた俺の努力をたった一言でぶち壊したこいつが悪ぃ。
「……その言葉、後悔すんなよ」
言うが早いか 俺は名無しの唇に噛み付いた。
自覚する程忙しなく動く舌は らしくないが、いつもより余裕が無いって事を物語っている。
後先考えず ただ欲望のままにしているこの行動は星の制圧時にも似た感じだ。
野性的で、本能的。
「ん……バ、ダ」
そしてなによりも官能的な表情をしているこいつに、俺はただただ踊らされちまっている。
は、笑えるな
「煽ったのは、てめぇだ」
ならもう素直に踊らせてもらおうじゃねぇか。
糸を引いた唇に、また かぶりついた。
酔いどれ気分はそのままで
(アルコールの混じった後味だ)