短編

□俺たちの戦いはまだこれからだ
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クリスマスの日におひとり様とは悲しいな。

そう からかってやったら、「ベジットもじゃん、暇なの?」反論された。
それもそうだ、こんなクリスマスの日にわざわざ馴染みの奴の家まで押しかけて、家主に悪態つくなんざ恋人のいねぇ独り身の暇人のやることだ。

「オレは顔が良いから、作ろうと思えば彼女の一人や二人作れんだよ」

「はいはい、……どうせやること無くて暇だから暇潰し感覚で家に来たんでしょ」

「……当たり」

「入りなよ、外寒いでしょ?。まぁこっちも彼氏がいないおひとり様だし、独り身同士仲良くクリスマス乗り切ろっか」

「へいへい。お邪魔しま〜す」


独り身同士仲良く、ねぇ……
その仲良くって意味合いは、名無しにとっちゃ友人同士のソレなんだろう。
……オレにとっちゃ、その仲良くってのは友人の先に進むキッカケにしたいもんなんだが…

さっきも言葉にしていたが、実際オレはモテる。
顔が良いから。あと、話しやすさ。
作ろうと思えば、簡単に彼女なんて作れるってのは盛った話じゃない。
事実、オレは何人もの女性からの告白の言葉にNOの返事をあげている。

理由なんざ簡単だ。名無しに惚れてるから。
それも、結構前から。

だからクリスマスってイベントの力を借りて、気持ち伝えて あわよくば先に……と密かに算段を立ててんだ。
こっそり忍ばせた彼女へのプレゼントは、どのタイミングで渡したものか……

いつも通り 雑談して、対戦ゲームして、テレビ見て。
刻々と時間が流れていき、中々切り出せない状況に焦っている中 ピンポンとチャイムの音が鳴る。

「ベジットちょっと待っててね〜、誰だろ」

おう。と短い返事をし、大人しく彼女を待つ。
あの反応からして、宅配などの類ではないだろう……であれば。と、消去法で思い浮かんだヤツが一人いる。

「(……まさか、な)」

「いきなり押しかけてしまってすまないな。お邪魔しまー………」

…………その まさか だった。


ーーーーー


自宅を出て早々に この地域では一番人気らしいケーキ屋に並んで、目当てのものを買った。
以前から用意しているプレゼントと一緒に渡すものだから、なんとなくこだわりたかったんだ。

数日前に、名無しとの雑談で彼女はクリスマスに予定は無い事は把握済みだから 気兼ねなく彼女の家に足を運べた。
ドアのチャイムを鳴らし、嫌がる事無く応対してくれる彼女は やはり可愛らしくて、より一層自分の中の決心を固めた。

そうだ、ここまでは 何もかも順調だったんだ。


「…………何故いる…」

「居ちゃ悪ぃかよ、というかお前も何で来たんだ」

「………多分お前と同じ理由だ」

ある意味、宣戦布告的な発言だと思う。
俺はベジットが彼女に自分と同じ感情を抱いているのは前々から気付いていた。
だから、たまにその事で互いに衝突する事もあった。
よりにもよって、何故こういった所の思想は同じなのか………

「なになに?ゴジータもおひとり様で暇人だから暇潰ししにきたの?」

「いや……まぁおひとり様というのは合っているが…………あぁ、そうだ名無し。ケーキを買ってきたんだ、良ければ……」

「わざわざ買ってきてくれたんだ。ありがとう!皆で食べよっか」

あぁ、ツイていない。
結局 人気店のホールケーキを囲むのは彼女と二人きりではなく、三人でになりそうだ。


ーーーーー

ふんわりした真っ白な塊を口に運べば、口内で甘さが広がった。
奴が買ってきたってのは ちと気に食わねぇが、素直に美味しいと感じるソレを有難く頂くとする。

「なーに睨んでんだよ」

「………別に睨んでなどいない」

「あーそうなんだな〜お前目付き悪ぃからてっきり睨んできてんのかと」

「随分な言い様だな」

「そりゃどうも。おーこわ」

オレが居たお陰で思い通りに行かなかったのが余程気に食わないのか、明らかに此方に敵対心丸出しの視線を向けるゴジータの顔面は、まるで鬼とか般若みたいだ。えんがちょ。

そのくせして、名無しに話しかける時にはオレからしたら 明らかに作ってますー みたいな気持ちの悪い微笑みを向けるもんだから、切り替え方は大したもんだと心の中で皮肉った。

「…なんか折角三人で集まってケーキだけってのも物足りないから、私チキンかなんか買ってくるよ」

突然立ち上がった名無しは、オレらの返事を待たずしてすぐに出かける準備に取り掛かる。

流石に寒空の下、わざわざ買いに行かせるのも申し訳ないからついて行こうかと同じタイミングでゴジータと申し出れば(考えることは同じらしい)、「2人共外にいたんだし、いつもなんだかんだ言ってお世話になってるから ここはお言葉に甘えて待っててほしいな」と、断られてしまった。
彼女なりの気遣いだろうが、恋敵同士の野郎2人っきりの状況は気まづいにも程がある。

もう一度、取り合おうとした瞬間

「分かった…なら お言葉に甘えさせてもらうよ。少ないがこれも持って行ってくれ。名無しの好きなものでも買ってくるといい」

了承の言葉と共に、名無しの手の平に札を置いて さっきみたいに彼女に微笑みかけやがったゴジータ。

「え、でもケーキまで貰っちゃったし悪いよ」

「いいんだ。折角のクリスマスなのだから、これくらいプレゼントさせてくれ」

「…ありがとう、ゴジータ!」

「あぁ、ベジットと待ってるよ。あまり急がなくてもいいが、体を冷やし過ぎないようにな」


「分かった!いってきまーす」と元気良く嬉しそうに家を出ていった名無し。
あぁ、やられた………絶対今のは彼女に好印象間違いナシだ。

「…………オレもやりゃ良かった」

「…お前みたいな明るく能天気なキャラじゃないからな、俺はこういった手口でいくしかない」

「……そりゃそうだ、お前ほんっと真面目キャラでつまらねぇもんな。大人しめの紳士キャラ演じるしかねぇもんな」

「言っておくが、お前になんと言われようと俺は彼女へのアピールを辞めるつもりはない」

「こっちだって同じだっての…やっぱのさっきのは宣戦布告だったってワケか」

「…名無しに少しでもアピールしてみろ。そこから上塗りしてやる」

「上等だ。ハッキリしたからには、オレも気なんざ遣わねぇ。お前の前で名無しと良い雰囲気になってやる」


バチバチと、ゴジータとの間で火の粉が散った気がした。
目的が一緒の以上 勝者は正しく一人だけで、これから先 長い戦いになりそうだと深い溜息が出る。

ゴジータとのこれは、なんだかバトルロワイヤルって名前が付きそうな物々しい感じの雰囲気で凄い戦いになりそうな予感はするが、実際の所 名無しに自分の想いは届いているのかとか 引かれていないかとか 少し不安になってしまってるのはお互い様なんだろう。

さて、これからどうしたものか。
とポケットに入った彼女へのプレゼントをそっと撫でた。


俺たちの戦いはまだこれからだ
(……とりあえず腹減ったな)(………それに関しては同感だ)
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