りくえすと

□溶けてはまた生まれる温度
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ここんとこ最近、オラの体がおかしいんだ。
どうおかしいのかって聞かれりゃハッキリと答えれねぇんだけど、とにかくおかしいんだ。

「(………へんなモンでも食ったかな…?)」

あん時拾い食いしたのがいけなかったか?…それとも捕まえて食べたイノシシか……?
不可解すぎる自分の体に、腕組みして首を傾げるオラの頭ん中は疑問でいっぺえだ。

「悟空、どうしたの?ぼーっとして」

「あ、あぁあ〜いや!何でねぇさ!あの、ほら!腹減ったなぁ〜って!ッ〜……」

ほら、今だっておかしいだろ?
絶対ぇ名無しも今のオラの反応に疑問を感じたに違ェねぇ

苦し紛れに誤魔化しとして、腹が減ったから と理由を付けたが(実際ちっと腹減ってんだけどな)自分でも呆れるくれぇの慌てっぷりを見せちまった事に若干の後悔が……

だけど名無しはそんなオラの反応に深く突っ込まず、魅力的な提案を持ちかけてきてくれた。

「あ〜、買い出し行かなきゃ あんまマトモな物作れないんだけど…ホットケーキミックスなら確かあったからそれでいいなら作ろうか?」

「……え、お、…いいんか?」

「全然いいよ、ホットケーキくらいなら全然時間掛からないしね。まぁ待ってて」

そう言うと、台所へと向かって行った名無し。
まさかこうなるとは思ってもみなかったと予想外の嬉しい展開に、オラの胸は色んなモンでいっぺぇだった。

食欲が満たされるという嬉しさからの高鳴りじゃねぇって事は分かる。
やっぱし、最近のオラは頗るおかしい。


ーーーーーーーーーー

「はい、どうぞ」

目の前にある小麦色した切り分けられている丸い形。
何枚か積み上げられていて、その香りは鼻をくすぐった。


「お、おう!サンキューな!……あり、おめぇは?」

「悟空に食べて貰いたいし私はいいよ」


"悟空に食べて貰いたい"
この言葉で、鼓動が早まったのを感じた。

名無しは優しいな……
……なんちゅうか、その…何か、めんこいっちゅーか……可愛いな

今までブルマとか色んな女の人に出会って来たけんど、こんな感情を抱くのは初めてだ。
目の前の名無しが可愛くって、可愛くって堪らねぇ。


自分はいい とオラの為に遠慮してくれた名無しに何だか申し訳ねぇ気がして、自然と名無しにホットケーキをフォークで差し出した。

「オラ、名無しと一緒に食べてぇ」

今のオラの素直な気持ちだ。
そう言うと、名無しは少し驚いた顔をした後に「ありがとう」と言うとオラの手からフォークを受け取る事無く、そのままホットケーキを口にした。

これまた予想外の出来事で、てっきりフォークを受け取ってホットケーキを食べると思ったんだけんど、そのまま食っちまうとは思わなんだ。

驚きで固まるオラに追い討ちをかけるかのように、名無しはオラの手からフォークを取って それからホットケーキを1切れ刺し、オラと同じようにそれを差し出してきた。


「……へ?」

「はい、お返し」


多分、同じようにやるっちゅー事なんだと思う。

確かこんな感じの、ブルマん家で見たような……
ブルマがベジータに あーん っつって飯食べさせて、ベジータの奴 ふざけるなと言いながら満更でも無さそうに顔を真っ赤にしてて オラはそれを見て笑ったっけな

それと似たような状況が、今オラに起きている……しかも相手は名無しで、名無し自らこの状況を作り出してくれたと……


らしくねぇが…オラは今とても緊張してっし、それと同時に嬉しい気持ちでいっぺぇだ。

「さ、サンキュ〜……」

待たせちまうのも悪いから、そのまま平静を保って有難く名無しからのホットケーキを口に運んだ。

あぁ、めぇったな……緊張し過ぎて美味いであろうホットケーキの味があんまし分かんねぇ……


「おう、うめぇッな!うん、うめぇ!」

あんまし味を感じ取る事が出来なかったが 悟られまいといつもの様に感想を伝えると名無しは そりゃ良かった と笑った。
あー……可愛いな、やっぱ。おめぇ……

やべぇな、さっきっから胸んトコ ドキドキして堪んねぇ…
息苦しいくらいだ。
あんまりにも世話しねぇ鼓動を名無しに気付かれたくなくって、誤魔化す様にホットケーキを口にかき込んだ。

「ー〜っんぐぅッー!!……」

一気に来た息苦しさに、胸を叩く。
馬鹿だ、オラは…そんなに沢山いっぺんに口に詰め込みゃあ、苦しくなるに決まってる。

「ご、悟空!? 何してんのさ、大丈夫!?ほら これ飲んで!」

オラの様子を見て慌てちまった名無し。
差し出されたその手にはさっき名無しが飲んでた紅茶のカップが握り締められていた。

胸がさっきとは別の意味で苦しくなってるオラは 細かい事考える余裕なんちゅーのはなくって、そのカップを受け取って一気に紅茶を口に流し込んだ。


「っ〜……ッぶひゃぁー!し、死ぬかと思ったぁ〜…」

「もう〜、そんな一気に食べるからだよ……馬鹿だなぁ悟空は」

「へへへ〜…………あり…?」

「ん?」

「い、いや 何でもねぇ!」


落ち着きを取り戻して 冷静になった途端、頭を過ぎった今の状況の事……
い、今オラは…名無しと……その、………
なんだっけな、これもブルマん家で見てブルマに教えてもらったんだよなぁ……

「(……か、かんせつキスっちゅーやつか…?)」

名無しと"かんせつキス"をしたって事実に直面して、嬉しいやら、なんか分かんねぇけど恥ずかしいやらって色んな気持ちが込み上げてきちまって大パニックだ…

「悟空、どうしたの?…大丈夫?」

「で、でぇじょうぶっ……!」

あー……調子狂っちまうな…
やっぱし最近のオラは本当におかしい…


「んー、熱でもあるのかな?」

「(ーっ!手っ、おでこにっ!?……)」


この気持ちの正体が分かんのは、まだまだ先になりそうだ。



溶けてはまた生まれる温度
(ひぇぇ……オラ色々ともたねぇぞ……本当にどうしちまったんだぁ………)
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