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□甘美な魅力
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「…政様ッ、政様!!」


ここは后の部屋

秦国の若王とは体を交えることはなく、伽の度に書簡を読み、隣で眠るだけ



政と呼ばれた王は女の声を耳にすると慌てて起き上がった
額から、背中から冷や汗をかいている



「…なんだ、名無しさん」

ふぅ、と一息つくと蝋に火を灯し、傍においていた湯呑みを手に取り少し口に含んだ


「すごく魘されて苦しそうでしたので…」

名無しさんは手ぬぐいで王の額の汗を拭い、心配した面持ちで王の顔を覗く


「案ずるな、名無しさん。
少し…昔のことを夢に見ただけだ」


「昔の…、?」


政はそのとき、初めて誰かに闇商紫夏の話をした



「…紫夏さんがいなければ、今の政様はいらっしゃらないのですね」

「ああ。」



「そんなお話を、私に…」

名無しさんは目線を下に落とし、布団をぎゅっと掴んだ



「お前だからだ。お前といると心が安らぐ。」

手にしていた湯呑みを寝台の傍らにある机に置くと、布団を握る名無しさんの手の上に自身の手を優しく重ねた


「政、さま…ッお手が」


「…紫夏の言う、守りたい命とはこういう事なんだな」

上に重ねる手が、握る手に変わる



「こういう、こと…?」


「お前のことだ。何があっても守りたい、命にかえても」



握った手の対の手で名無しさんの頭から髪の毛先までするりと指を通すと、頬を撫で、耳の軟骨をすりすりと触った
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