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□ビネツ
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女は、乗馬したまま戦地を見下していた
「名無しさんさん、ここはそろそろ危ねぇですぜ、近くのゼノウ一家を連れて一旦本陣へ移りやしょう」
甲冑と、美しい首飾りや腕輪を身につけた男は乗っている馬の蹄を鳴らして踵を返す
「…そうね。」
「急報ッ!!急報ーッ!!」
全速力で馬を走らせていた伝者の男は慌てて馬を止め、はあはあと息を切らせていた。
「何事?」
「おっお頭が…ッ!」
「なにッ!?」
名無しさんは急いで馬を走らせ天幕へ向かうと、天幕外には桓騎軍の兵士たちが集っていた
「名無しさんさんッ!」
「黒桜は…!?」
「いえ、まだ…!」
「どけ!!」
天幕外へ集った兵士を素早く掻き分け天幕へ足を踏み入れると、そこには仰臥する桓騎の姿があった。
「おかしらッ…!」
慌てて駆け寄ると、桓騎は薄く目を開け鼻で笑った
「なに目に涙溜めてンだよ」
「だっ、だって」
桓騎は頬を紅潮させ、荒い呼吸を繰り返し大量に汗をかいていた
「情けねぇ、これから本戦だってのに…ただの熱だよ。」
側まで駆け寄った名無しさんの頬に、するりと手を伸ばし親指で頬を撫で、「心配すんな」と小さく呟いた。