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□ビネツ
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「おかしらぁ…熱なんてッ…だしたこと、っ」
「…ま、俺も所詮人間ってこった。」
桓騎は弱々しく吐き捨てると、名無しさんの頬を撫でた手を自分の額に当てた
「わりィ名無しさん…そこの冷えた手拭い、額に乗せてくれ…」
いつもの圧倒的な存在感や恍惚とする表情はなく、熱に魘されまるで子供のような姿に名無しさんは不覚にも心が締め付けられた。
額に濡らした手拭いを乗せてやると、桓騎の強ばっていた表情は少し解けて和らいだような気がした。
「…名無しさん、みず…」
「あっあ、みずっ」
天幕を後にし、水を汲んで急いで戻ると湯呑には半分ほどしか残っていなかった。
「お頭…起き上がれますか?」
湯呑を置き、桓騎の頭に手を掛けようとする名無しさんに桓騎は。
「阿呆か…お前の口で飲ませろ。」
桓騎は自分の額の、もう体温ですっかり温まってしまった手拭いを雑に放ると、それが当たり前かのように薄く唇を開き待っていた。
「…ッ失礼します…」
名無しさんは何度も飲ませるだけだと自分に言い聞かせ、冷えた水を口に含んだ
桓騎の紅潮した頬に手を添え、唇を合わせると後頭部に桓騎の手があり、強く押し付けるかのように寄せられる
少しずつ水が移っていき、自分の口内の水が無くなったところで後頭部に添えられた手が離れた
「ん、…んまい」
桓騎は口から零れた水を舌で掬うと、小さく息を漏らし、瞼を閉じた
「そういうの、…ずるいと思います」
「俺の色香に酔ったか?」
「…はよ寝てください」
つれねぇなぁと口にすると、口角を上げたまま桓騎は寝入った
桓騎が目覚めるまで、名無しさんは前線に立つことはなかった。