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□赤子のように
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蒙家の嫡男と許嫁になって1年。
齢十八になる蒙恬と十七の名無しさん
名無しさんと婚約してから蒙恬は他の女にうつつを抜かつことが無くなった。
それは名無しさんが秦国内で有名になるほどの美人であったがためなのか、または他に何か持ち合わさていたからかは当人しか分からない。
「ねえ名無しさん、どうして俺と婚約してくれたの?」
「親が決めたことでしょ。」
名無しさんは近所の甘味屋で蒙恬と団子を口にしていた。
もごもごと団子を頬張りながらまるで機械とでも喋っているかのように抑揚がない。
「冷たぁ〜い〜名無しさん〜」
「ねえねえ、俺のどこが好き?」
「家と顔」
「冷たい♡」
「あつっ!!」
まるで誰もいないかのように振る舞う名無しさんはお茶を口にしてその熱さに思わず顔を顰めた
「大丈夫!?名無しさん、火傷!?」
「…。」
「あちゅい〜〜!恬ー、べろやけどちたぁ〜!」
さながら赤ん坊のような撫で声に蒙恬は眉を寄せいかにも心配したような面持ちで顔を近づけた
「どちたの〜名無しさんお茶あっちかったの〜?」
出された舌を覗き、口内の火傷など見ても分からないのにまじまじと見渡す
「…うざ。もういい。飲まん帰ろ」
今にも泣きそうだった名無しさんはころっと顔を変え団子を残したまますっくと立ち上がった
「あらら、俺のお姫様は本当に気まぐれだなあ」
蒙恬は座っていた所に金を置くと急いで名無しさんを追いかけた
「おーい、名無しさんちゃん?ご機嫌ななめー…?」
先程の怒った顔を思い出しながら恐る恐る近づくと名無しさんはまさかだが嬉しそうな顔をしていた。
「何見てんの、…って、ああ。」
名無しさんが見ていたものは簪で、色とりどりの綺麗な簪が並べられていた。