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□蒙恬×バンドマン
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「恬ー…ってもう、」
私は蒙恬の彼女になって早半年
週に2回ほど蒙恬の家を訪ねて料理や掃除などしている。
大学2年の私は、1つ上の蒙恬と友達経由で仲良くなり交際に至った
いつもの様に合鍵で蒙恬の家へ尋ねると、ベッドを背もたれに眠っていた。
机の上には無造作に置かれた楽譜とペン、それから吸殻の溜まった灰皿といつもの煙草とライター。
吸殻を捨て、机の上を片付け、遮光カーテンを勢いよく開けると物音と光に起こされたのか蒙恬は重い瞼をゆっくり開いた。
「んぁ…?名無しさん…」
「もう、なんでこんな数日で汚くなるかなあ」
コップにミネラルウォーターを注ぎ、蒙恬に手渡すと喉を鳴らして直ぐに飲み干す。
「名無しさん〜コーヒー飲みたあい」
「自分で煎れてください」
名無しさんは周りに放り投げられた衣類を纏めはじめる
蒙恬は##name1#の手を掴むともう一度、
「名無しさん、おねがい。」
名無しさんはこの顔にめっぽう弱かった
「っしょうがないな!!」
「あはは、ありがとう名無しさん大好きー」
蒙恬は寝起きで少しうねった髪を掻き上げ、煙草を口に咥えて火をつけた
毎度この仕草はどうしても照れてしまう。
形のいい唇が薄く開いているのも、ライターを覆う骨ばった大きな手も、煙を吐く姿も
煙に体が蝕まれていくのを知っていながら名無しさんは辞めろとは言えなかった。
「…名無しさん?見すぎ。」
コーヒーを煎れる手が、ピッタリと止まってしまっていることに気がついた
「失礼しましたっ」
机にドンとマグカップを置くと、蒙恬は「苦しゅうない」と笑った
「なに?そんなに俺に見惚れちゃったの?」
蒙恬はクスクスと笑い吸い込んだ煙をふう、と名無しさんに吹きかけた
「ぶわあ!!それやめてほんとッげほ!」
煙を消すように両手でバタバタ扇ぐ名無しさんの反応に、蒙恬はまた笑った
「かわいー」
くしゃっと名無しさんの頭を撫でると、6弦ギターを手に取り膝に乗せた
「また新しーの書いてるの?」
激しく書き込まれた楽譜を名無しさんは覗き込む
「んーん、前の直してる」
楽譜と弦を交互に見ながら指を動かす蒙恬の姿に見惚れてしまう
「灰、落ちるよ…」
「ん。」とだけ返ってきて、すぐさま灰皿に煙草が押し付けられ、やがて火は消える
「お昼、食べる?」
「ん。」
味のない蒙恬の返事に不機嫌になる訳でもなく、名無しさんは立ち上がってキッチンに立った。
名無しさんは蒙恬の楽譜とギターに向かう真剣な顔が、この世で一番好きだった。