if

□昌平君×バーテンダー
1ページ/1ページ




曇天から予想通りにしとしと小雨が降り、やがて本降りに変わる。


カランカラン…とドアの鈴が鳴り、女がビニール傘を手に髪や服を程よく濡らしていた。


「いらっしゃいませ。名無しさんさん」


男はワイングラスを拭きながら、ドアの前に立つ##name1#という女に話しかけた。


「やっほー昌平君、もう雨凄くってー」

女は手にしていた傘を簡単に畳み、髪を手ぐしで整えた。


「こちらにどうぞ」

名無しさんは羽織っていたジャケットを脱ぐと案内されたバーカウンターの背もたれに掛け、腰を下ろした


「急に降ってくるもんだから、お気に入りのヒールびしょびしょだよう」



雨の日の客は少なく、名無しさんの他に2、3人ぽつぽつとカウンターに客が座っていた


「昌平君、雨に因んだカクテルを頂戴な。」

「…承知しました。」


昌平君と呼ばれた長髪の男はシェーカーに氷とリキュールをいれ、手際よく振った


「あたしこの姿見るために来てるのよね」


名無しさんはぼそっと呟くとカウンターに頬杖をつき、シェイカーを振るバーテンダーをうっとり見つめた。

「お待たせしました。ブルームーンです」


「ブルームーン…かわいい、紫色だ。」


名無しさんは出されたグラスを引き寄せると、くっと少しだけ口に含んでみた。


「ジンベースで、レモンも入れているのでフルーティーな香りでしょう。」


「本当だ。…すごく美味しい」


良かったです。と昌平君は手元を急がせ、他の客からのオーダーを受けているようだった。



「昌平君聞いてよ。」


唐突に話題を出したかと思えばそれは恋愛についてだった。

昌平君はうんうんと相槌をうち、まるで親友かのように話を聞いた



ブルームーンのカクテル言葉は「完全なる恋」。
そして「叶わぬ恋」、「出来ない相談」


このカクテル言葉が昌平君の心の言葉であった。



「もうこの際昌平君狙っちゃおっかな」


カラン、と4杯目のグラスの氷が鳴る。

昌平君は作業を止め、ピクリと眉を動かした。


「…俺はやめておいたほうがいいぞ。」

「だよね、誰もこんな毎日飲み歩いてるような女拾ってくれないよねえ」


甲高らかに笑い飛ばすと、名無しさんは「お勘定」と。


昌平君は伝票を手渡すと同時に、名無しさんの手を軽く握ってみた。


「え、ちょっどうしたの?」


「…熱いな。」


名無しさんは明らかに動揺した様子で、紅い頬を更に紅く染める。


「あ、ああ!心配してくれてるの?大丈夫だよ、いつもの事だから!」


慌てて手を引っ込め、鞄から財布を取り出し会計を済ます。


「じゃあ、ご馳走様昌平君。また今度!」


名無しさんは足早に店を飛び出していく


「また今度、か…。」


残った昌平君は名無しさんが飲んでいたグラスを手に取り縁を指先でキュッとなぞった。
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ