ぶっく

□二人分の温度
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「ねぇmもう別れよっか」
この部屋の温度が一人分少なくなり、肌寒さを感じるようになってもう一週間が経った。朝の情報番組では今日の夜は満月だなんて話していたけどそれを確認するにはあまりにも雲が多すぎる。「満月が見たかった」なんて気持ちを共有する人も方法ももうなくて

「じゃあ、今までありがとうね麻衣。お幸せに」
mは私のその提案をためらくことなく受け入れ、なんともあっけないほどに早いスピードでこの部屋から出ていった。まるでこの部屋から、私から逃げるように。

「試しに聞いてみただけなんだけどなぁ」
一人分の明かりがともるこの部屋で呟く。mと別れてみて我慢していたところや、嫌な部分が溢れてくる。まるで魔法に説かれたみたいに。mのことを考えれば考えるほどに、嫌いの感情では包み隠せないほどの好きが溢れてくる。どうやら私はまだ魔法にかかっているのかもしれない。

「最近よくあのお店行ってるらしいじゃん。お気に入りの店員さんでもできたの?」
「そんなわけないでしょ、家から近いだけだよ。mには麻衣だけしか必要ないから」

そうやって私を抱きしめたのは嘘だったのか、それとも私の思い出が偽りなのか今となってはもう分からない。
私ね実は知ってたんだ。mがあの子と話すときの目がほかの子と違うことも。

「それでも私のそばにいてくれると思ってたのに、負けたのは私のほうだったか」
そう言ってため息をつく。一人の部屋にため息が充満していく。
魔法にかかっていたのは私だけだつたんだね。
気が付くと雲は消え去り一人分の影を映し出す。一人に慣れない私はついあなたへの言葉を紡ぎそうになる。きっmなら「月がきれいだね」なんて言うんだろうななんて考えてしまう私はまだ魔法にかけられているのかもしれない。
月はただ私を照らし続けていた。













「お仕事お疲れ様、今日は満月だから二人で見たくて迎えに来ちゃった。ほら見て、月が凄い奇麗」
「ほんまやなぁ」
「大好きだよ、七瀬」
「うちも」
月は二人を照らし続ける。


フラれてみたんだよ / indigo la End


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