小説
□雪の降らない街(創作)
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「キライだよ。冬は、寒いから…」
そう、話す彼女を
僕は少し遠くから見つめた。
二人で住むアパートの小さな部屋。
その真ん中にある火燵で僕と一緒にあたたまっていた彼女は、突然何を思ったか、火燵から這い出しベランダの窓を開けた。
途端に部屋に流れ込む冷気に、自然と身体が強張る。
寒い、と僕が言っても無反応。
どうしたの、と僕が問い掛けてもやはり無反応。
そんな中でかけられた言葉は、あまりに突拍子の無いものだった。
「どうして?君は冬生まれじゃないか。」
火燵布団を肩のところまで引き上げつつ、そう聞き返してみたら、彼女は少しだけ目を伏せて、でもすぐにいつものあの明るい顔になってこう言ってきた。
「冬に生まれたからって、必ず冬を好きとは限らないんじゃない?あなただって、六月の梅雨真っ盛りに生まれたからって、あんなじめじめした季節が一番好きなの?」
正直、そう切り替えされるとは思っていなかった。
一瞬、口ごもった。
「そういうわけじゃ…無い、けど。」
「でしょう?」
フフン、と鼻で笑った彼女は、うろたえる僕に満足したのか、窓を閉めた。
何故、急にこんな話題になったんだろう。
思い当たる節は…無きにしもあらず、だ。
そう、カレンダーは今日から一年の最後の月を示している。
冬は、もうすぐそこに…。
「これ、プレゼント。」
相変わらずのあの部屋で、僕と彼女はささやかな誕生日会をしていた。
窓の外はクリスマス一色。
近くの商店街では毎年恒例のイルミネーションが、街を幻想的にライトアップしている。
彼女の誕生日は、クリスマスにとても近い。
そのせいで子供の頃は、誕生日とクリスマスを一緒にされたと愚痴を言う彼女を見ながら、よくからかったものだ。
でも、今年は違う。
僕と過ごす冬は
君にとっての特別であって欲しい。
キライだなんて、言わせたりしない。
だから…
「わぁ…!」
包みを開けた彼女は、その中に入っていたものにひどく驚いていたようだった。
「今年から、冬が好きになってほしいなって、思ってさ。」
その為に選んだ、プレゼントは…
「コート!!」
そう。彼女の好きな色、ホワイトの流行りのコートだ。
正直、コートなんて既に持っているわけだし、所詮は男の僕が選んだもの。
もしかしたらデザインが気に入らないかもしれない…
悪ければ、突き返されるかもしれない…
そんなことを思って不安になっていた僕。
でも、そんな心配をする必要は無かったようで…
「凄い!可愛いよこれ。嬉しい!!ありがとう。」
そう言いながら、早速コートに袖を通したり、かと思ったら床に広げてみたり…。
はしゃぐ彼女の顔を見ていたら、なぜか外に出たくなった。
「散歩でも、行こうか?」
頷く彼女のはしゃぐ笑顔を連れて、部屋を出れば…
「うわぁ…。」
「綺麗…!!」
外に広がっていたのは、白い…冬。
僕らの街にはめったに訪れない、冬の使者…雪。
君と僕、手と手を重ねて、見上げた。
空一面の、粉雪。
隣でホワイトクリスマスを願う彼女に、取っておきの聖夜を約束しつつ、僕らは冬を歩き出した。
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