小説

□その背中を蹴飛ばしてしまいたい(佐幸)
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※学パロ


呼び鈴が鳴る。
待ちに待ったお昼休みを告げる、幸せの音のはず…なのに。

この俺にとっては、地獄の訪れを告げる悪魔の囁き同然に聞こえるのだった。












「ねぇねぇ旦那。今日のお弁当、どう?」

「うむ」

「良かったー!!今日も旦那のこと考えながら愛情いーっぱい詰めて作ったから、まずいはずないとは思っていたんだけどね」

「…むう」

「あ、今日のデザートは特大プリンだよ!!丼使って作ったんだぁー」

「ふむ」

「ねぇ旦那ー。今日の夕飯のメニューでなんかリクエストないー?俺様頑張って作るからなんでも言ってよ!!」

「…コロッケ」

「コロッケね!!了解。全力で作るから楽しみにしててね、旦那」

「……………はぁ」

教室のほぼ真ん中で、俺は何故こんな会話をしなければならないのか。
それには一つ、訳がある。

そしてそれこそが、俺…真田幸村が昼休みを楽しみに出来ない理由なのだ。










俺にせっせと弁当を作り、夕飯をこしらえようとするこいつ…名を猿飛佐助という。

こいつとの付き合いは小学生の頃からで、うちの隣に猿飛一家が引っ越して来たのが始まりだ。
佐助の両親はなかなか忙しい身らしく、この頃では一年の殆どを海外などで過ごしているらしい。
そのせいか、佐助は同い年の男子にしては何かと器用で、自炊は勿論家事全般を得意とし、料理をうちにおすそ分けしに来たりする。
うちは色々あって兄と二人暮らしをしているから、そういうのは凄く助かる。
何だかんだと過ごすうちに自然と仲良くなり、まぁ…今では…その、友達以上の関係に落ち着いて、いるわけだが…。

しかし、今思い返してみればその頃からだ。
佐助が…その、何と言うか…過保護というか、妙に世話焼きになったのは。

登下校は必ず二人(誰かにストーカーでもされたら大変だからと佐助は言う)
クラスが違うのにわざわざ俺のクラスに来て昼食(他者の介入は許されないと佐助は無言のオーラを放つ)
公共の場での破廉恥な発言(見せつけようと佐助は笑う)
クラスメイトなどとの会話の内容の把握(特に隣の席の政宗殿との会話は要注意だと佐助は警戒する)
などなど…

さらに今月は、兄が長期出張で家にいないため、(強制的に)佐助の家で寝泊まりさせられている為、佐助の世話焼き加減もどんどんエスカレートしてしまっているのだ。
そんな生活がもろに周りに露呈してしまう時間…それこそが昼休みというわけだ。

毎日毎日あのような会話をさせられる、こっちの身も考えて欲しい…

そう思ってあからさまに冷たい態度をとっても、佐助には効かない…むしろ逆効果のようで、つんでれ…と言われるようになってしまった。

…ところでつんでれとは何でござろう?


特大プリンを流し込み、待ちに待った昼休み終了のチャイムと佐助の教室から去る時お馴染みの断末魔を聞きながら、あとで慶次殿にでも聞いてみようかな、と思った俺だった。
















「真田、お前も大変だな」

教室の自分の席で大きな溜息をついた俺にそう声をかけてくれたのは、甘味好きで仲良くなった毛利殿だった。

毛利殿は立っているのが億劫なのか(わざわざ座っていた政宗殿を退かして)俺の隣の席に座り、そのすらりとした足を組んだ。

その瞳には同情や哀れみの色は見えないが、どこか同類を見ているような視線を感じた。

「まぁ…慣れた故」

無意識の古めかしい言葉遣い。普通の人はそれを標準語にしようとするが、毛利殿はそういうことを気にしないようで、特にとやかくは言ってこない。
「…ふむ。慣れというのは…恐ろしいものだな」

「…まったくでござるな…」

はは、と笑ってみたものの、乾いていて明らかに苦笑しているようにしか聞こえない。

「ああいうタイプの輩にはきつく一言言ったほうがいいと我は思うがな」

「えっ?」

不意に視線を外した毛利殿は、遠く…ここにはいない誰かを思い浮かべて話しているようにも見える。

「一言…そう、真田。猿飛がしつこいのならば…ここは一つ、こう言ってみてはどうだろう」










毛利殿の口から聞いたその言葉を、佐助にぶつけてみよう…。

俺がそう決意するのとほぼ同時に、毛利殿は腰を上げた。

もうすぐ授業が始まるなと呟く毛利殿に、俺は一つだけ質問を投げかけてみた。

「毛利殿、一つお聞きしたいのだが…」

「…なんだ」

「つんでれとはどういうことか、ご存知だろうか?」











毛利殿がその後急に機嫌を悪くし、知らん!!と言い放った後政宗殿に八つ当たりをした理由が

俺には全く分からなかった。















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