小説

□斜陽【1】(承ポル)
1ページ/1ページ

 今日、俺は3つの面倒ごとに遭遇した。
 1つ目、これはほぼ毎日のことでもはやなれそうになっていることだが、母親にいってらっしゃいのキスをされ、さらにここからが本当に面倒で、その姿を同級生に見られたことだ。
まあ…まだそれを見たのが、比較的気の知れたやつだったし

「ああ、またかい」
と苦笑いされただけ…ん、だけ?だったからこれはまだいい。

 2つ目、昼休みに屋上に向かう途中よくわからない理由で先輩に呼び出され、ボッコボコにされそうになったこと。…この場合、正当防衛は認められるのだろうか…なんて、切った口は使途相手のくそみたいな顔を殴ったときにぶつけたこぶしの傷を見つめながらメシを食った。

 そして極め付けが3つ目。傷を見て呆れた先公が保健室に行くことを要求してきたこと。さらに保健医が不在ではなかったこと、それこそが、本日の…いや最近の面倒ごとNo.1だ。

「おや、今日も来たね。また…派手にやられたようだ」
 そういって、昼下がりの保健室で笑うそいつのことが、俺は大嫌いだった。
 
 名を…確か、J・P・ポルナレフ…と言ったか。何でこんな東京のそうでもない都立高校なんぞにいるんだよって言いたくなる様な…フランス人医師だ。名前とその出身国以外の個人情報は誰も知らない。そんなやつをどうして…と、疑問に思うのはとっくの昔にやめた。
 でも腕は確かで、よく…本当不本意ながらもよくここに来る俺が言うから間違いねえ。手際はいいし治りも…早い気が、する。

 そんなことを考えている俺をよそに、黙って差し出した手の治療を終えたやつは、口の端の傷に手を伸ばす。触れた指先がやけに冷たくて、思わず身じろぎをした。

「つ、めてえな…このっ…!」
「おや、すまない…冷え性なものでね」
 手を引っ込めて、目の前でひらひらさせる仕草も、俺がなぜこんな傷を作ってくるのか、すべてお見通しとでもいいたいがのような眼も、全てを許容してくれる…その、優しさ、も…全部…

「気にくわねえ…」
「ふふ、結構なことだよ」
 そういって笑ったヤツの顔は、なんつうか…菩薩?みたいな不思議な雰囲気を持っていて…



その眼に見つめられてしまえば、もうアウトだ。

俺はココに、コイツの元にやってくることになると

直感的に感じたのが1年の春。

それ以来、その直感は最悪な形で実現されている。

その年月1年とちょっと。

深追いすることもなく、お大事にと笑う笑うやつとの生活が

俺の運命を左右すると知っていたのは

ヤツだけだったんだろう…。


















(斜陽、煌く)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ