小説
□斜陽【2】(承ポル)
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「今日はまた、派手にやられたものだ…」
「…、うるせえ、さっさと…」
朝、一般学生が教室に吸い込まれていく中、いつものように不機嫌そうな表情で椅子にどかりと座る男、1人。
名を、空条承太郎。高校2年生、性格は冷静で自分から人に手を上げるようなタイプではない。ではなぜ、彼は今傷だらけなのか。
理由を聞くことはない。なぜなら、わかっているから。
「今日はあらかた、上級生に絡まれていた下級生の前を通って、とばっちりでも受けたんだろう…?」
「…」
沈黙は肯定の証。どうして知っているんだとでもい痛げな視線を投げられたものの、相手のあきらめたようなため息を聞いて、それ以上口を出すのをやめた。
前々からこのようなことがあったから、相手ももう言及する気がなくなったのだろう…と、相手のはれぼったくなっている頬に消毒液を含ませた脱脂綿をあてがいながら考えていた。
「…っつぅ!!…おいテメェ、急に何すんだっ?!」
「…何って…消毒だろう…?このくらいでうろたえるなんて、案外かわいらしいところもあるんだな」
「うるせえ…」
「はは、急にと言うところは謝ろう、すまないね」
「…ちっ」
口は悪いが、おとなしく治療されているところからしても、彼が外見や物言いからは少しわかりづらい、優しい心の持ち主ということはわかる。それを理解しようとしない人が多いことも、事実ではあるが…
(だから、私は…私だけは…)
わかろうと思った。理解者でいたいと思った。相手がどう思っているかはおいておいて…誰でもない、自分がそうありたいと思っているから…
そのために、私は…
<ズキン>
胸の鈍い痛みを感じながらも、立ち去る彼の背を見つめる。
(そう、わかってもらえなくてもいい。
それでも、私は…)
「…いつも、わりぃ…な」
「…??!」
そう思っている私の耳に聞こえたのはいつもはかえってこないはずの感謝の声。
驚いて眼を上げたがもうそこに彼はおらず
ほのかなタバコと、消毒の香りだけが残っていた。
「嗚呼…」
ため息混じりにこぼれた声は、感じてしまった喜びと、それに対する懺悔の証。
魂は惹かれあい、引かれ合い、共鳴する…
そして、変化をもたらし、眠っていた何かを目覚めさせる。
このとき私は
戻れないところまできていたのだ。
(斜陽、焦がれる)