小説
□斜陽【5】(承ポル)
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信じられなかった。信じたくはなかった。
自分のあの夢を。自分の隠れた秘密を。
あの夢を見たその日、俺は心ここにあらずな状態だった。
誰にも、言えないと思った。そう、あんなこと誰にも。
そして自分なりに考えた。俺は…その、いわゆる”ゲイ”なのか、と。
とりあえず親友(ダチ)の花京院をそういう目で見てみようとした…が、一瞬で無理だった…あいつをそういう目では見れない…
まあもしかしたら相手が悪かったのかもしれない、と、気分は乗らなかったが他のヤツもそういう目で見ようとしたが…やっぱり無理だった。
(ということは…)
あれは…何を示しているんだ?
夢の中のアイツ…よく思い出せないが、保健医に似ているが、どこか違っていた…
というか、あの妙なリアリティーはいったい?
俺はあいつにだけ欲情するってぇのか?そんなまさか。
時が経つにつれ、あのヴィジョンは薄れていったが、男を抱いていたという、その罪悪感にも似た感覚だけが胸に鈍い痛みを残して…
そんなこともあり、自然と保健室へ足を向けることは少なくなっていった。
そんな、ある日の放課後のことだ。
「いっつ…」
「…どうした、花京院」
帰り支度を終え、さっさと家路につこうとしていた矢先、花京院が紙で指を切った。
そういう小さな傷でもこいつは過敏に反応する。少しうろたえた声を出した後。花京院は申し訳なさそうにこちらを見ながらつぶやいた。
「保健室に行って、もらってきてくれないかい、…ばんそうこう…」
そして今、俺はとても理不尽な理由でぱしられている。
向かう足がひどく重たい。
(何が、日直の日誌が書き終わらないから、だ…ほとんど終わってたくせして…今、会いたくねえってぇのに…)
先程のヤツの言い分を思い出し、思わず舌打ちが出る。
それでもこうしてソコへ向かっているのはきっと…
はっきり…させてえんだ…この、もやもやを。
アイツに会えば、わかる気がする。だから…
俺は扉を開けた。
夕陽差し込む、夕焼けの部屋
消毒液の香りと、シーツの真新しい香り
聞こえたせき込む声と
赤、が…
目に焼き付いて
俺の心臓は大きく跳ねた。
(斜陽、差し込む)