小説

□我儘ロンリーハート(花→ポル←ジョル)
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自分は子どもじゃないと言い聞かせてきた。
そうしなければ乗り越えられないものが多い世界だから。
そうしなければ貴方の隣に立てないと思ったから。


でも同時に子どものようになりたいとも思ってしまう。
子どものように貴方に縋って
行かないで、側にいて、このままずっと、と
甘えることができるから。


どっちにもなれず
でも、どっちにもなりたい。


そんな僕の我儘はいつか
誰かに諭されてしまうだろうと
知っていたのに。













その日は唐突に訪れた。
いつものように仕事の話を、と、彼の自室へ足を運ぶ。彼はどうやら眠っているようだ。

(幽霊も睡眠をとると知った時の驚きといったら…)
そんなことを考えながら暗い部屋へ入る。

そう、彼はもうこの世にはいない存在。本来なら天に召されている存在。
それでも彼がココにいるのは、多くの偶然と、誰かさんの我儘のせいだ。

ふと、誰かの気配を感じて目線を上げる。

すると、眠る彼の傍らに見慣れぬ人物が立っているではないか。

(どこから入った…?いや、そもそも、なんだか生気が…感じられない)

相手も僕の気配を感じたのか、彼に向けていた目線をふ、と上げる。
嗚呼、なんと冷たい視線なんだろうか。

「あなたは、誰です…?」

そう問いかけるとその人物は少し笑った後こう答えた。

『迎えに来たんだ、彼を。仲間として、ね』


嗚呼、ついに来たんだ、彼がしがみつく生を手放す瞬間が…

(でも、僕はまだ…)
伝えてもいない。
感謝も、この、胸の奥にある…恋と免罪符をうった、どす黒い独占欲を…

(渡したくない…渡すわけにはいかない…)
まだ、貴方には

ココニイテモラワナケレバナラナイノダカラ…

「…勝手に、」

『?』

「勝手に、人のものを持っていこうとするなんて、なんて浅はかな人…いえ、もう人じゃないんですかね、貴方は…」

『…』

自分の口から、こんなに感情に素直な言葉が出るなんて思ってもみなかった。

(そう。貴方はいつだって僕を変えてくれる。そんな貴方が、僕は…)

『…はは、何を言い出すかと思ったら、案外子どもなんだね、君は…』

そう、緑の影は笑った。

「子ども…?僕が?」

『そう。これは自分のものだと駄々をこねて、誰かに言われても手を放そうとしない。駄々っ子も同然だと思うけれど』

「…違う。僕はもう大人だ…そう、彼の隣にいるにふさわしい…」

『…違うだろう?大人なら、一人で歩いていけるはずだ。
それでも、誰かの手を借りたいと縋るのは、子どものすることだよ』

「っ…」

何も言えない僕に、影は表情を一変させまくしたてる。

『君が、いつまでもそうやってココに彼を縛るから…
だから変わってしまったんだ…僕の、僕の心の支えだったのに…
彼の、明るさが、…なのに…こんなに、…』

「…」

『だから、返してくれよ。僕はまだ子どもなんだ。ずっと、あの日から、前に進めない、子どものまま…
僕には、僕には必要なんだ、だから…

カエシテクレヨ』




睨みあったまま、僕らは何もできずにいる。
当の本人は、未だ微睡の彼方から戻ってこない。


(僕は、どうしたいんだろう)










答えを出せないまま、
見つめる先の緑の影は
僕がずっと口に出せなかった言葉を
いともたやすく言ってのけるのだった。


























我儘ロンリーハート
(愛しているを言えなかったのは
僕の我儘のせいだったんだ)





















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