treasure2

□中3の話
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目が覚めた。

部室。
途中から違う字で書かれた部誌。真っ暗になった外。
肩にかけられた自分のじゃない学生服。
机に突っ伏せるツンツン頭。


―ああ。俺、寝てたのか。


ぼんやりする頭でそう考え、壁にかけてある時計を見て覚醒した。
そして、目の前ですやすやと寝息をたてる男の頭をこづく。
「おい。」
無反応。
「…」
俺は一呼吸して拳を作って振り下ろした。
ごいん。

「〜〜〜〜っ!!?」

ガタンと音を立てて立ち上がる際に、膝を椅子にぶつけたみたいで頭と膝を抱えて床をもんどりうっている姿は滑稽だった。
「帰るぞ。」
こっそり奴の頭を殴った手を擦りながら、肩にかかっていた学生服を投げ返し、自分の学生服に袖を通す。
「いってーなぁ…いってーよ…」
鼻を啜りながらも膝を抱えて蹲る所を見ると、さっきのダメージは結構なものだったらしい。
溜息をつきながらその前にしゃがむ。
「大丈夫か?」
「……」
返事がない。
殴った箇所を、少し申し訳無い気持ちでさする。
「……。」
「よっし、大丈夫!帰ろうぜ…!!」

痛さで涙目なのは見逃しておこう。コイツが強がりなのは今に始まったことじゃない。




職員室に部誌を置いて、いつものように自転車置き場に行く。
「お疲れさん。」
「ああ。…俺が漕ぐか?」
さっき、歩き方が不自然だったのを思い出して提案すれば、少し驚いたようだが首を横に降る。
「いや、大丈夫。ありがとうな。」
後部座席を手で叩かれ、そこに座り込む。
「っし、行くぜ。」


春だが、まだ冷たい風を受けながら肩に置いた手に力を入れる。


新入部員も入り、学校全体がぎこちない中で、俺もその空気に流されて最近変な緊張をしっ放しだったせいか、疲れが溜まっていた上に、ここ数日寝不足で正直辛かった。
さっき、部誌を書きながら船を漕いでいたのだが本格的に寝ていたらしい。
寝ていたのは恐らく一時間程。それだけでもかなり体が楽になった。

「なー」
「ああ?」

思考中に話し掛けられてうっかり柄の悪い返事がでるが、いつもの事だしな。と言葉の続きを待つ。
「俺、副部長だからさ。…いや、副部長だからっていうか…」
珍しく言葉を選びあぐねているようだった。

こいつの言いたい事が何となくわかったから、何かいう前にそれを遮って言った。

「ありがとう。………今日は早く寝る。」
「…」

わかってたのかよ。小さく前方で呟かれたのは風に流されて俺に届いた。



俺の字の続きになった、少し歪んだ字。
肩にかかっていた学生服。
起こさずに傍にいてくれた一時間。
当り前になった帰り道。
疲れているから休め、と教えてくれた(実際言われてない)

自分を追い詰めていた事が馬鹿らしくなった。
コイツはいつも傍に居た。
ただ、最近見失っていただけだ。

「ありがとう。桃城。」
「…どういたしまして、海堂。」
安堵したような声音がくすぐったくて、心地よくて。



別れ際、ばーかと言われたから阿呆と返したらキスされた。


〜end〜

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