小説

□斜陽【7】(承ポル)
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そう、あれは…私が30歳頃の、夏だったか。

私はその日、シェリーに頼まれた買い物をして、家に帰ろうと街路を小走りに進んでいた。
その時、記憶の中の彼が、目の前を通り過ぎ…私は息を飲み、思わず相手の名を声に出しそうになった。

…その彼とは、そう。前世で私をかばい、命を散らした、アヴドゥル、その人である。

ざわつく心を押さえつけ、無意識にあとを追いかけた私は
その事故に遭遇する。


居眠り運転をしたトラックが歩道へ侵入。歩行者数人をはねた。その数人の中に、アヴドゥルがいた。
(アイツを…守らねぇと…

今度は、おれが!!)

それはもう、反射的なものだった。近くでその現場を眺めていた私は、咄嗟にアヴドゥルを庇うようにソコへ飛び込み、意識を手放した。




次に目を覚ました時には、視界が半分になっていた。右目の失明てこれも前世と一緒なのか、と、冷めた笑いがこみ上げたが、胸の鋭い痛みにそれもかなわず…

『目が、覚めたんじゃな…』
思わず咳き込んだ私の耳に入ってきた声は懐かしく…
視線をゆるりと動かし声の主を見ると、そこには思っていたよりも少し若々しい彼がそこにいて、何故か安堵の息が漏れた。


『ジョースター…さん?』

『…わしのファミリーネームを知っておるということは…ある程度覚えているということじゃな、…ポルナレフ…、くん』

朦朧とする意識の中、昔の面影からその名を呼んでしまった私に返された、含みを持った言葉。
それが新たな再開を意味していると、私はぼんやり考えていた。


私の元に現れた彼、ジョセフ・ジョースターの話をまとめると、彼も一部ではありながら前世の記憶を有しており、図らずも前世と同じような経歴を辿っているのだという。妻はスージーQ、子はホリィ。孫は…承太郎。皆記憶はないことと、スタンド能力に関するもの以外前世の姿、性格、そのままだという。
そして彼はたまたま仕事先のエジプトでアヴドゥルに再会、記憶をほとんど有していないものの魂が共鳴したこだろうか…したってきてくれたアヴドゥルを自分の会社に引き入れ、ともに仕事をしていたのだという。
そしてあの日、事故にあったアヴドゥル(彼は軽傷で済んだらしい)に面会に来た際、重症だった私を見つけ、手厚い保護をしてくれたようだ。(このあたりはシェリーに後日聞かされた)


前世の仲間が、この世界に実在している。何より、彼…承太郎も…
承太郎。その名を聞いて、複雑な想いを持たざるを得なかった、というのが本音だ。前世、あの旅の途中でわたし達は…


今思えば全て、若気の至りだった。何がきっかけだったのか、もう思い出せないが、私と承太郎はいわゆる体だけの関係を持っていた。
互いの欲を吐き出すだけの行為に、恋愛感情など…なく(いや、そう思いたかっただけなのかもしれないが)男同士という異常な状態には目をつむり、戦いの中あやふやになったまま別れ、私は、ディアボロに襲われた。

その後、いつ、どのように死を迎えたか定かではないが、承太郎とは再会することはなかった。

今世、人並みに女性に興味も関心もあり、反応もするし…女性を抱いたことも、少なからずある。

しかし、彼の名を聞いた時、私の心はひどくざわついた。どうなりたいか、など…考えもしなかったものの、傍に行きたいとどこかで思っていたのだろうか…


事故によって右眼を失明し、肺に大きな損傷を受けた私は、ジョースターさんの好意に甘える形で治療を受けていた。
その間、なんとなくお互いに顔を合わせづらかったため、アヴドゥルとは会うことなく…いつの間にか彼は無事退院していった。

そうして、あるときからとある計画を思い描くようになった。それはきっと、人生最後のわがままになるだろう、計画。


『なんじゃと?承太郎の入る学校に?』
『…はい。資格もあります。日本語も、練習しました』
『何を、体もまだ治りきっていないのに…』
『…分かっているんです。もう。長くないって。だから。この間言ってくださったんでしょう?…なにか、したいことがあれば、願いがあれば何でも言って欲しい、って…』
『…』
『すみません…今までさんざんお世話になりっぱなしで…最後まで…わがままを言ってしまって…』
『ポルナレフ…』
『シェリーにも、嬉しいことに大切にしてくれる人が現れました…婚約も決まりました。あちらの御両親も良い方です。あの子の幸せのためにも…私はここから去らねば…』
『そんな、ことは…ないじゃろう!』
『……お願いします!ジョースターさん…アイツ…いえ、彼を、承太郎たちを、導いてやりたいんです。微力だとしても、役不足だと、しても…』
『……なぜ、そこまでアイツらにこだわる?』
『…前世、への…』
『…?』
『前世、の彼らへの…贖罪のためです』
そう、告げた後のジョースターさんの表情は、どこか、悲しげだった。



シェリーとジョースターさんと、なんにちにもわたって話し合い、私は日本の高校の保健医として彼の元へいくこととなった。


そして、彼に出会い…










「ごほっ…」

茜射す午後の病室。響いた咳。
思い返す。私は本当に彼を変えられたのだろうか?

(結局私は、何もできないまま…)
手のひらの紅をぼーっと見つめ、込み上げてきたものは、乾いた、自傷的な笑いだった。









(斜陽、傾く)
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