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□終焉という名の先―菊の花が散る―#
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家に帰り、俺は仔猫を洗ってやり、ミルクを飲ませた。

俺は、静かに仔猫の頭を撫でた。
「名前を、つけなくちゃな。」

何が良いだろうと、頭を抱えた。
タマ…?いや。
トラ…?いや。
ミケ…?いや。


改めて俺は、仔猫を見た。

赤っぽい茶色の毛並み。
人懐っこそうな瞳。
俺の撫でる手に嬉しそうにする姿。


「…えーじ…」
俺は無意識に

応えてくれるはずのない人の名を
呼んでいた。

「みゃう?」

不思議そうに仔猫は首を傾げた。

お前は良く似ているよ。

俺の愛した人に…。





仔猫は覚束ない足を必死に動かし、俺の膝までたどり着くと、安心したのか、ポテッと、膝の上に顔をのせた。
「みゃ。」
「…。」


この仔猫は、俺を求めている。
でも


お前もまた

「俺より先に逝ってしまうんだろう?」



見上げる仔猫の頭に

暖かな涙が落ちた。





子供の頃、大好きだったペットを亡くして泣き崩れていた時、母さんが俺にこう言った。

『秀一郎、なぜ動物達は先に死んじゃうんだと思う?

それはね、

動物達は私たちの死ぬ所を見たくないからなのよ。

私たち人間の方が哀しいことに耐えられるでしょ?』



その言葉を再び思い出す。

あなたも、そしてこの仔猫も、俺を置いて逝くんだ。


母さん、一つだけ言わせて下さい。


「俺はそんなに強くないんだ…。」

掠れた声が部屋に響いた。


「みゃあん。」
仔猫はなお、俺を見上げ、そのクリクリとした瞳で俺を見つめる。

また一粒、涙が落ちて、手を濡らした。

「お前はやっぱり似ているよ。えーじに…。」
「みゃ!!」

俺は優しく"英二"を抱き上げると、まるであなたを抱きしめるかのように、腕の中に包んだ。

「会いに来てくれたんだね…。」
目を閉じる。
生きている者の温もりを感じる。
「俺がこれ以上哀しまないように。」

あなたはいつでも俺を笑顔にしようとしてくれるんだね。

「さあ、買い物に行こうか、

えーじ。」

「みゃあ。」



秋も

越えて行ける気がした。
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