小説
□君と世界の夢物語(佐幸#←才)
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真田十勇士―と言っても今は九人しか居ないのだが―を全員部屋へ呼んだのは、医師に見てもらった後すぐだった。
久しぶりに揃った顔ぶれに、思わず顔が綻ぶ。
「急に呼び出してすまない。戦前で忙しかっただろう?」
「いえ、みな主の命とあらばすぐに駆けつけます故。」
「はは、それは頼もしいな。」
俺の笑った声が部屋に響く。
皆、俺の言葉を待っているようだ。
「今から、お前達に伝えなければならぬことがある。」
大きくゆっくりと息を吸い込む。
「頼む。どうか最後まで何も言わず聞いて欲しい。」
そう言って、俺は一気に話し出した。
「忍であるお前達ならば既に知っている事と思うが、大きな戦が近づいている。
俺の身体はこのように、既に使い物にならない。
しかし、戦場こそが俺のいるべき場所なのだ。
だから、次の戦、俺も出陣しようと思う。」
「なっ…!?」
「本気ですか!?」
「あぁ。先程この旨、お館様にもお伝えしてきたところだ。」
「主…。」
各々口を開こうとする皆を手で制する。
「頼む…言いたいことは分かる。だが、聞いて欲しい。」
「きっと、次の戦が最後の戦になるだろう。戦場で死ぬか、戦場から帰って来てから死ぬか、どちらが先か分からぬが、戦場でもし俺が病のせいで襲われるようなことがあっても
俺に構うな。他の者の命を護れ。いいな。
俺などほおっておいたとてすぐ死ぬ身。未来のある者を救うのだ。
それに、佐助のようなことは二度とごめんだからな。
それと、俺が居なくなり、真田の名が絶えたら、皆で真田の財を分けて欲しい。後の働き口はきっとお館様に言えばどうとでもなるだろう。
だが、もし、兄様が戻ってこられて、再び真田の名を世に、と仰られたその時は、どうか…どうか力を貸してあげて欲しい。
兄様は真の武士(もののふ)。間違ったことはしないはず。
頼む。」
そこまで一気に言ってしまうと、胸につかえていたものが無くなったようで、さっぱりした気分になった。
最後に皆に頭を下げ、一言謝った。
「…身勝手な主ですまない。」
と。
「…顔をお上げ下さい、主。」
穏やかな才蔵の声に顔を上げると、そこには畏まった様子の皆がいた。
「忍が、このような切り出しかたもどうかと思いますが、皆その通りなので敢えて言わせていただきます。」
「鎌之介…。」
「従者として言わせていただければ、主の決定を覆そうという気など毛頭ございません。」
「しかし、その…人として、言わせてもらえば、貴方には生きていていただきたい。」
「才蔵。
みんな………。」
皆、顔には出ていないが哀しそうで、俺はまた謝ることしか出来なかった。
案の定、と言ったところだろうか。
何時ものように先陣をきり、敵本陣を目指していたが、発作に動きが鈍り、そこを敵が見逃すはずもなく
今だとばかりに突っ込んで来た彼らをかわせず、左肩をやられてしまう。
「くっ…そおおお!!」
腕一本でどこまでいけるだろう、それより俺の心の臓はまだもってくれるのだろうか、せめて、敵大将を倒してから…
「…ぁ。」
それは突然だった。
がくん、と膝が折れ、そのまま上体は地へと向かう。
俺の身体はもう、限界だったのだ。
ゆっくりと仰向けになった。
見上げた先には青空は見当たらない。
戦の煙で淀んだ空を、彼はとても嫌っていた。
カァ
ふと狭くなった視界に黒が過り目を凝らすと、鴉が集まって来ていた。
…死肉を啄みに来たか。
唯一しっかりしている思考を巡らせ、そんなことを考えている。
周りにあるのは生きてはいないただの肉片だ。そこに自らも入っているのだろうか。
『鴉はね、すごく頭がいいんだ。それに気高いし、ね。
ねぇ、旦那は鴉が好き?』
俺の真上で、鴉が一羽旋回を始めた。
―俺を狙っておるのか。
周りでは既に地に降り立ち、何羽もの鴉が嘴を忙しなく動かし始めている。
―俺ももうほとんど死んでいるも同然だしな。
―鴉、嫌いなわけがなかろう。
お前のように艶やかな、生き物を。嫌いになれるはずもない。
あの日の自分の言葉が、再び頭を過る。
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