短編
□ここからまたはじめましょう(佐+幸)
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※パラレル+現代
※一万打感謝記念
今時、こんなべたな小説みたいな行動をおこす人がいるのだろうか
いたとしても俺みたいな物好きなヤツ位なのではないか…そんなことを思いながら一歩一歩踏み出していく
そこは見渡せば、樹海
そして俺は自殺志願者だ
自殺するのに飛び降りをしたり、電車なんかに飛び込むヤツがいるが、ああいう赤の他人にまで迷惑をかけるような死に方は良くないと俺は思っている。
生きていて散々人に迷惑をかけたんだから、わざわざ死ぬ時まで恥の上塗りみたいなことをする必要性があるんだろうかってね。
だからといってもっとスマートに…例えば睡眠薬を大量に飲んだり、青酸カリをあおってみたり、練炭を使って一酸化炭素中毒になってみたり、部屋で首つったり、風呂場で手首を深く切ったりするのも嫌だった。
何故か…死んだ顔とかを他のヤツに見られるのが嫌だからだ。
どんなザマでも…死に様を見られるのはなんだか恥ずかしいやらムカつくやらで嫌なんだ。
だからここに来た。この樹海に。
俺はこれからこの樹海の適当な木で首吊り自殺をする。
この樹海はまだパトロールなんかもなく、隠れた自殺スポットだ。
樹海の入り口に止めた俺の車(とは言えレンタカーだが)が発見され、樹海探索が行われる頃には、俺の肉体は腐敗を始めているだろう。
いっそそれくらいのほうがいいと思ったんだ。
今少し冷静になって考えると…死んですぐと死んでしばらく経ってぐちゃぐちゃになってからと…どっちが一般的に言って恥ずかしいという感情を持つに値するか
分かるような気もした(つまりは俺の選択は間違っていたということだ)が、今更引き返す気にもならなかった。
随分歩いた。
もう、いいか…そう思い周りを見渡すと、右前方に俺が首を吊すのにちょうど良い高さと強度の木があった。
(これにしよう)
そう決心して木に触れようと一歩踏み出した時
「あっ…」
ふと見下ろした足元…そう、俺のスニーカーの真下に一輪の花があった。
(踏んだ…!?)
視界の情報が脳に届き、シナプスが電気信号を送って状況を正しく認識し、咄嗟に足を退けた。
「あ、ごめん…踏むつもりはなかったんだ…あぁ…茎が…大丈夫?本当にごめ…」
完全に無意識だった。
死ぬ時には誰にも迷惑をかけない
そんな自分の信条が真っ先に頭に浮かんだからなのか
俺は必死に踏み付けてしまった花に謝っていたのだ。
すぐにバカバカしくなって謝るのを止めた。
(何をやってんだろ…俺様)
ふぅ…と軽く息を吐くと、またこれみよがしに花を踏むのもなんだか居心地悪いので、花を避けて木に近付いた。
…今度は足元に花は無い。
足元に折りたたみ式の椅子を出し乗る。
そして木の枝に持って来たロープをかけ、先が輪っかになるようにして縛り付けた。
息を吸う…息を吐く。
これが最後の深呼吸だと思うと…なんだか感慨深い。
もう一度息を吸う…息を吐く。
息と一緒に魂も抜けていったら…そしたら楽に死ねるのにな…と、ぼんやり考えながらロープに手をかけた。
そして作ったわっかに首を入れて、椅子を蹴飛ばせば…
「何をするつもりなのだ?」
「!?」
この世からおさらば出来る、そう決心した俺の耳に…突然誰かの声が入ってきた。
思わず辺りを見渡す。
…が、そこに人影は無い。
(…空耳、か)
こんな時に…そう思いながら再び足に力を入れた。
椅子を蹴飛ばせば…首がしまって…そして…
「何をするつもりなのだ?」
「…!!」
また、聞こえた。
少年のような…澄んだ凛とした声。
俺の鼓膜を確かに揺さぶるその声は、さっきと全く同じ響きで俺の行動を停止させる。
「…誰?」
思わず、震えそうになる喉を必死に押し殺して尋ねた。
その間にも周りを見晴らすが、やはり誰もいない。
返事などかえってこないだろう…そう高を括っていた俺に
「下だ、下。某はここだ」
さっき聞こえたのと同じ少年の声が
下から確かに聞こえた。
意味が分からない。
思わず言われた通り下を見れば、そこにあるのは
木々の根と雑草…そしてさっき俺が踏んでしまった花だけ。
俺と会話しているモノが何なのか
全く分からない。
言葉を失っている俺に…先程の声が告げる。
「さっきはよくも踏んでくれたな、おぬし」
からからと笑うその声
告げられた内容
それらが導く発話者の正体は…
「…は、な?」
「やっと気付いてくれたか」
俺がさっき踏み付けてしまった、花…だったのだ。
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