短編

□狂想曲は終わらない(佐幸#)
1ページ/1ページ


その気持ちに気付いた時にはもう
手遅れだった…っていうのは
ただの言い訳にすぎない。










薄暗い部屋に、彼を運んだ。

夕食に強力な睡眠薬を仕込み、彼を深い眠りに誘ったのは
何を隠そうこの俺様。

そして
この上田城にいた俺達二人以外の全ての人間を始末したのも
何を隠そうこの優秀な忍である俺様。

全員を始末するにはかなりの労力と時間を割かなければならなかった。

けれど、その労力と時間に見合うだけの理由が俺にはあったのだ。


(だって…)

横たわる旦那の艶やかな頬を指でなぞる。

(みんな旦那と関わりすぎなんだもの)

城主である者なのだから、臣下達との接触や会話、女中達の身の回りの世話なんかがあるのは当たり前だけど
それでも俺は、俺以外の人物が旦那と一緒にいるのが許せなかった。


一分一秒たりとも
俺以外のヤツに旦那を渡したくない。

というより…
俺は旦那の全てになりたいんだ。

旦那が五感に感じる全ての事象も、痛みも悲しみも苦しみも喜びも快楽も…もうありとあらゆるものが、俺が与えたものであってほしい。

だから他には誰もいらない。
単純明快ほら簡単。



まだ眠る旦那の寝顔を見る。
なんて可愛らしいんだろう。
こんな天使のような寝顔を、俺が任務でいない間に女中どもが見ていたのかと思うと、怒りで手が震えてきそうだった。


旦那のそばにしゃがみ込む。
なんていい匂いなんだろう。
こんなお日様みたいな暖かい香りを、俺以外の臣下どもも嗅いでいたのかと思うと、怒りで目の前が真っ暗になりそうだった。

旦那に飲ませた薬も、もうすぐきれてしまう…その前にしなければいけないことがある。

俺は用意していた特製の鉄製足枷と手枷を旦那にはめた。

(でも、旦那が起きて状況を知って万が一にも暴れてしまったら…)
ぱちりと、留め金をかませてからぼんやり考える。

(この枷のせいで、旦那の腕や足に傷が出来たらやだな…)

俺以外のヤツが旦那を傷付けるなんて…
そこまで考えて、自分の考えながら矛盾していて少し笑えた。

(そう思うなら最初からこんなもの、付けなきゃいいんだよね)

でもそうはいかない。
だって俺は…旦那を…


そう、これから起こすであろう自らの行動を念いながら、俺は最後の枷を旦那につけた。

黒光りする枷が、透き通るような白い旦那の肌のおかげでかなり映えた。


















少しして
部屋で一人、ただその時を待っていた俺の耳に聞き慣れたうめき声が入ってきた。

俺はくるりと旦那のほうを向いて、今まで通りの調子で話し掛けた。

「おはよ、旦那」
本当はこんばんはというほうがいいような時間だったが、目覚めの一言はやはりおはよう以外には無いだろうと思う。
にこりと笑いかける俺と、人気の無くなった上田の城、そして自らを拘束する重たい枷を目の当たりにし、思った通り旦那は酷く混乱しているようだ。

だから旦那に教えてあげるんだ。
これからの、素晴らしい日々について。

「今日から俺様と旦那、二人だけで生活出来るよ。嬉しいでしょ、嬉しいよね。

旦那は俺様のものだもんね?
そうでしょ?

俺様、旦那が大好きなんだよ。
愛してるの。

だから俺様、旦那の全部になりたいんだ。

旦那と生きていけるのも
旦那に痛いことして傷をつけられるのも
旦那に喜びを与えられるのも
何より
旦那に快楽を教えてあげられるのも
俺様、だけ。



いいよね?旦那」


一気に言った。
旦那の答えはもう分かりきっていたから。

そして俺は宣言通り
無知で無垢な旦那の着物に手を伸ばす。

旦那はまだ自分の置かれた状況が分かっていないようで、一筋、涙を流し震えていた。

大丈夫、と囁きながらも
その姿に欲情している自分がいた。

旦那の身体を近づけ、我が身に感じる旦那の呼吸さえ愛おしくて…
息をする間も与えず噛み付くように奪った唇。

そのまま旦那を組み敷けば、快楽はもうすぐ訪れる。

「佐助…」
瞳を潤ませこちらを見上げこう呟かれては

理性なんて…無いと等しい存在になってしまうのもまた
必然だよね。



自分のエゴで城にいた者を全て消し
主である人を閉じ込めて
夜になったら犯す
でも愛してるんだから当たり前だよね。

「だから俺は狂ってなんか
いない。」


俺の下で
未知なる熱と快楽の渦に翻弄され
乱れていく旦那を見下ろしながら

呟いた。










狂想曲は終わらない
(これからもずっとこのまま二人だけで踊り続ける
ずっとずっとずっとずっとずっと…永遠に)













.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ