小説

□その度にこの話になるのか…(沖斎)
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☆斎藤さん偏頭痛持ち設定

しとしとと…

雨が、降っている。

殺風景な自分の部屋に座り込んで、俺はその雨音を聞いている。

「…ふぅ。」

例えではなく、いつもより重たい頭を摩る。

ずきずきと、ちょうどこめかみの部分が痛んだ。

昔から、こうだ。

雨が降り出す時や、季節の変わり目なんかに良く頭痛を起こす。これを、医学的には偏頭痛と呼ぶらしい。

ぼぅ…と、ただ何をするでもなく座りこむ。



何も…考えたくない…

すると…

とたとた…と

軽い足取りが俺の部屋に近付いてくる。


足音の主は部屋の前で止まると、襖越しに控えめに声をかけると、ゆっくりと部屋の中に入ってきた。

「大丈夫?一君」

手に持っていた盆―その上には小さな紙包みと水の入った湯呑みがのせられている―を近くに置くと、総司は俺の顔を心配そうな顔で覗き込んできて、その翡翠色の瞳がぶつかる。


「…ああ。」

最早持病ともいえることなので、そんなに心配する必要は無いと…いつも言っているのだが、総司は毎回こうして俺の体調を気付かっては、こうして薬を持ってきてくれる。
嬉しいのだが…そんな顔をしないで欲しいと思っているため、複雑な気分になる。


いつものように総司は盆の中の紙包み―中身はあの石田散薬だ―と湯呑みを俺に差し出す。

「飲める?なんなら、僕が飲ませてあげよっか?」

少し冗談めいた微笑みを浮かべて、総司は俺をからかう。

…馬鹿か。そんなことさせるわけが…

そう、毒づいてやろうと口を開いた

瞬間

「っぅ…!!」

「っ、一君?!」

突然の嘔吐感…

倒れ込むように部屋の隅のくずかごに向かい、せりあがってきたものを吐き出す。

途端に口に広がる、独特の酸味…部屋に広がる独特の臭い。

「っかは…げほっ…!!」

「一君、大丈夫?!一君!!」


総司の声がとても側で聞こえ、不意に感じるは…背中を摩る総司の温かな手。

ある程度吐き出せば、引いていく嘔吐感。



ふう…と、息をつく。

気付けば総司の手はまだ俺の背にある。

「…は、ぁ…すまない。ありがとう、総司。」

「いや…それはいいけど…大丈夫なの?」


総司に見せていたのはあくまでも頭痛だけ。

だが、酷い時には吐き気を伴うこともたまにあったのだ。
「大丈夫だ。」

そう言って笑うと、総司も戸惑いながらも笑ってくれた。

俺達の間に、嘘偽りは何も無い。

俺が大丈夫と言えば本当に大丈夫なのだと、総司は最近になってやっと信じてくれるようになったのだ。


と…

「一君…もしかして…さぁ」

「?なんだ」

にこり、と

笑った総司の顔が…なんだかこの場に不釣り合いな気がする。

何を言い出すのやらと、かまえていると…


総司が口にしたのは

「今のって…つわりかなぁ!!」

「………………………は?」

あまりに馬鹿馬鹿しいものだった。

「だってさぁ!!吐き気といえばつわr「あんたは馬鹿か。俺は男だ。」


気持ち悪い口を湯呑みの水で濯ぎ、ふらりと立ち上がって襖を開け、縁側に座って雨の当たらない中庭の端に吐き出した。


ついでに部屋のなんともいえない空気が換気されたらいい。

そう…この呆れた男の馬鹿な考えもどこかにいったらいいのにと思った。

が、そう簡単にいくわけもなく

「だってさぁ!!時期的にもさぁ、ちょうどじゃない一君。あぁ、あの時の一君とっても色っぽかったな…「黙れ総司!!!!」

大きい声を出してしまい、頭に響いた。

「っつぅ…。」

「一君っ。」

思わず顔をしかめた俺に、少し後ろを向き、すぐに視線を合わせた総司の顔が近づき、唇が重なった。

「んっ…?!」

こいつ…本当に口移しを…

とは言え早く楽になりたいのは真実で…俺は与えられた薬を水ごと飲み込む。

確かに動いた俺の喉を見て、満足そうにした総司だったが、唇を離そうとしない。

(全く…!!)

いつ誰かが来るとも分からないのに…

だが、この一時を拒もうとは…思わなかった。



しばらくして離れる口。

ぼぅ…と夢うつつな頭で考えた。

「…そ、じ。」

「んぅ??なぁに?」

「俺の…口のなか…」

「あー、全然平気だよ。そんな顔しないの。」

俺の言わんとしたことを先読みしたのか、総司はくすりと笑う。

よかった…単純にそう思った。

―嫌われたら、などと…考えた己が恥ずかしい。

(総司はそんな小さな男ではない、か)

ほぅ…と、また一つ息を吐いた。

不思議と…頭痛は引いたようなきがする。

(石田散薬の力か…はたまた総司の力か…なんてな)












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