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□Song for you.
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二人で、久しぶりにカラオケに行くことにした。
**Song for you.**
「ほんとに久しぶりだねー。おーいしと二人きりでカラオケ来るの。」
「そーだな。部活でとかはあったけど、二人きりってのはな。」
年末近い今日この頃。
受験という、最大の敵が居ないエスカレーター式学校生である俺たちは、他の中学3年生よりは、多少暇だった。
そこで俺は、大石をカラオケに誘ったのだ。
カラオケに入ると、それぞれ持ち歌を好きに歌った。
まあ、それがカラオケってもんだからね、当たり前なんだけど…。
得意のデュエットをしたり、今どきのポップスを歌ったり…
気が付いたら2時間、歌いっぱなしだった。
「ふあ、さすがに疲れたにゃ…。」
「んまあ、確かにな。」
「俺きゅーけい!!ちょっと聞いてるよ、おーいしの歌。」
「え?え、ちょっと…。えーじ歌わないの?」
「休憩だって。だっておーいしすごく歌いたさそうだし?」
「…うん。」
大石の手にはマイクがしっかりと握られていて、傍らでは端末で次の曲を探している。
大石こんなに歌うキャラだっけ?
いつもの大石は、みんなの歌に合いの手入れたり、基本、聞き担当だった。
「こっちの方が本物?」
「ん?何が?」
「あ、いやいや、なんでもないですよー。ほら、曲始まったよ。」
「うん。」
危ない危ない。うっかり口に出しちゃった…。
俺は、流れてきた前奏に耳を傾けた。
これ…聞いたことある。
緩やかなバラードの柔らかな旋律に、聞き覚えがあった。
これは…
「
いつからだろう
君がただの友達じゃなくなったのは
ボクの胸に
暖かな気持ちが芽生え始めたのは
キミの面影探して
キミの温もり探して
暗い夜を何度も繰り返したけど
たった一言が言えなくて
さようなら
涙を隠して去っていく背に
どうして手を差し出せなかったのだろう
ありがとう
愛してる
言えなかった言葉が今
滴とともに消えていく
」
男性アーティストが歌う、切ないラブバラードだった。
「っ…、え、えーじ…?
何で泣いてるの?」
大石が、歌い終わった。
そして、俺の異変に気が付いた。
そう、俺は泣いていた。
なぜかなんて、分からない。
ただ、大石の声がどこか悲しげで、綺麗すぎて、胸に、染みて…
いつの間にか泣いていたんだ。
「…わ、分かんないよっ。ひっく…、ぅう…。」
「ほ、ほら、涙を拭いて…?」
大石の優しい指が、俺の頬を伝う涙を拭っていく。
目の前に近づいた大石の顔は、すごく困った様子だった。
あ…、なんか悪いことしたかな…?
「ぐしっ…うっ…、ごめん…おーいし。急に、泣いたりして…。」
「ううん。でも…何で、泣いてたのか…聞いてもいい?」
「…なんかね、切なくなったの。」
「え…?」
「おーいしの声、俺好きだよ。すごく。胸に響く。だからかな。曲の切ないフレーズが…すごく…。」
「えーじ。」
大石は俺の名を呼ぶと、ゆっくり俺の肩を抱き寄せた。
「っ、ほんと。おーいし歌上手すぎ。歌手になれるんじゃない?」
「えぇっ!?そんな…。」
「なれるよ〜。おーいしの声魅力的だし。」
「…なんか、えーじに言われると…、照れるなあ…。」
「おーいしが歌手になったらさ、俺マネージャーやっちゃる!!そんで、おーいしの歌近くで聞くんだー!!…うわ、なんかすごく贅沢…。」
「あはははっ…。えーじってば…。そんな、歌手になんかならなくても、えーじのために歌ってあげることは出来るよ。」
「ぅっ…、ほ、んと…////?」
「それに、歌手になっちゃったら…
えーじとあんまり一緒に居られなくなっちゃうじゃないか。」
にこっ
ああ、それは反則だよ、大石。
そんな優しい声で、そんな優しい笑顔で
そんな優しい事言わないで。
「っ…あ、…そっか…。」
「うん。
俺、えーじのためだけに、歌、歌いたいな。」
Song for you.
永久に、貴方だけに。
-fin-