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□immortale
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気が付いたら、そう呼んでいた。
―呼ばれていた。
**immortale**
いつもと同じように、太陽が紅くなるころ、部活が終わった。
俺は、手塚に頼まれていた仕事をするために部室へ行った。
すると、誰もいないと思っていたのに、部室の中に桃城がいて驚いた。
「あ、大石先輩!!」
桃城は俺の姿を見つけると、待ってましたとばかりに腰を上げた。
「あれ、桃?なんでここに?」
「なんでって…、俺も手伝えって手塚部長に言われたんすよ。」
「あぁ、そうなんだ。それじゃ、はじめようか。」
「はい!!」
手塚に頼まれていた仕事というのは、部活の試合状況を記したノートの整理だった。
決まった時期に、とか、誰が、とか、決まってはいないんだけど、こんな面倒くさい仕事を進んでやろうなんて人いないだろうから。
手塚は俺に頼んできたわけだけど…。
「なんだか静かなのもつまらないから、なんか話すか。」
「そーっすねー。」
沈黙があまり好きじゃない者同士、この雰囲気に耐えきれなくなっていたようで、桃城は俺の誘いにのってくれた。
「あ、俺前から気になってたコトがあるんすけど。」
「ん?なんだ?」
「なんで大石先輩は、英二先輩のこと名前で呼ぶようになったんすか?」
「え?」
唐突に聞かれたその不思議な質問の意図が分からず、俺は顔を上げた。
「なんでそんなこと急に…?」
「あ、いや特に意味は無いんスけど、ふと気になって…。」
「うーん…。そうだなあ…。」
ふと、頭に浮かんだ光景。
茜に染まった太陽。
汗をかいた君と俺。
初々しい会話。
握っていたラケット。
約束の場所。
宣戦布告の地。
コンテナと、君の笑顔。
そう、あれは初めてコンビを組んだ日。
『俺、菊丸英二。英二でいいぜ!!』
そう、君が言ったから。
俺はキミを、英二と呼ぶようになった。
あの日のことを思い出すと、自然と笑みがこぼれる。
―だけど今は桃城の前なわけで…
「…大石先輩?何、ニヤついてるんすか…?」
「っわ!!ごめんごめん。ちょっと昔のこと思い出してたんだ。」
「自然と顔がニヤけるほどいい思い出なんすか?」
「クスッ…、まあね。」
俺は、丁度手元にあったノートを開き、そこに目を落とした。
そして、あの茜色の思い出を話した。
桃城は、やっぱり…といった顔で大きく頷き、こんなこと大石先輩に聞くようなことじゃ無いんですけど、と前置きしてから話し出した。
「なんで英二先輩は先輩方のこと呼び捨てでは呼ばないんでしょうね?」
「あぁ。 それは確かに…。」
桃城の言う通り、英二は俺たちのことを名前では呼ばない。
その本当の理由は、本人にしか分からないけれど、俺には思い当たることがあった。
「…俺も、えーじに直接聞いた訳じゃないから真実とは言えないけど、少なくとも俺たちの間では、俺が名前で呼ぶように言わなかったからじゃないかなって、思ってる。」
「…というと?」
「いや、えーじは自分から名前で呼んでって言ったけど、俺からは名前で呼んでとか、言わなかったから。えーじはもしかしたら、許可が無いと呼んじゃいけないとか…思ってるのかなって。」
「へぇ…。」
「あくまで予想だからね?…でも、
えーじはああ見えて律儀だから。
」
「へ?先輩、なんか言いました?」
勝手な想像だけど、キミのことはなんとなく分かるから…
「なんでもないさ。よし、ノート整理終わり。桃、ありがとな。もういいぞ。」
「え、あ…はい。」
そしてそんなキミを、人に知られたくないから…
夜、俺は英二に電話をかけようと思った。
気になった訳じゃないけど、真実が…英二が俺を名前で呼ばない理由が、知りたくなった。
自分の部屋で、携帯を開くと、すぐにどこからか電話がかかってきた。
驚いて見ると、その電話の主を告げる文字に、笑いがでた。
「えーじ?」
『あ、おーいし!!夜にごめんね…って、なに笑ってんの!?』
「んふふっ、ふはっ…い、いや。丁度俺もえーじに電話しようと思ってたところだったから、なんだか可笑しくて…。」
『お、そうなの!?すっげー!!以心伝心じゃん。さすが黄金ペアだよねん!!』
「ああ。そうだな。」
何気ない、こんな会話にも心を震わせ、声が聞きたかったからと、電話の理由を恥じらいながら話すキミに、いとおしさを感じ、今すぐに抱き締めたい欲求にかられる俺は、多分重症。
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