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□旅は道連れ飲む情け…?
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夜遅く、怪しげな光の元、異様な音を立てる凄まじい色の液体と、それを見つめてニヤリと不気味に口角を上げる眼鏡が、一人。
「…でーきーたーぞー…。」
高らかな笑い声が彼の口から漏れる。
こうしてその夜は更けていった…。
**旅は道連れ飲む情け…?**
―翌日
最初にその液体の存在を知ったのは、運び屋を任されてしまった副部長、大石秀一郎だった。
放課後の学校。部活に向かう学生に溢れた廊下を、俺もその内の一人として、歩いていた時のこと…。
「やぁ、大石。」
「っと、ぅわ、びっくりしたぁ…。なんだよ乾、急に…。」
角を曲がって不意に現れた眼鏡の長身に、思わず後ずさってしまった。
「いや、大石に頼みがあるんだが…。この水筒を部室まで運んでくれないか。俺はまだ部活に行けそうにないのでな。」
ずいっと彼が突きだした手には、手頃なサイズの水筒が一つ。
何となく…今までの彼の行動を見ていれば、その水筒の中身は予想がつくけど…
いや、あえて聞かないことにしよう…。
「え、まぁ…いいけど…。(あれ、乾のやつ、いつも以上に逆光が…)」
「くれぐれも溢したりしないでくれよ?頼んだぞ…。」
「う、うん。分かったから、…あの、乾、顔近いから。あと…怖いから。」
「ん…あ、すまないな。
とにかく…頼んだぞ…?」
そう言って乾はくるりと180度回転し、フラフラと覚束ない足取りでその場を立ち去っていった。
…あいつ、大丈夫か…?
多少の心配はあったけれど、部室の鍵開けもあるし、まぁ乾のことだから多分この水筒の中身を作るのに徹夜でもしたんだろうなー、と考え直した俺は、乾のお使い(…嫌だなこの響き)を、やり遂げることにした。
「にしてもなぁ…。」
無事に部室に着いたはいいが、一向に乾は来ないし、正直、乾があんなに必死になるような代物がこの水筒に入っていると思うと…
「気になるよなぁ…。」
まぁ、中身は新作の『乾汁』だろうけど、いずれ俺たちが飲まされるであろう物を、今手にしているという事実は、かなり俺を大胆にさせるらしい。
「この水筒の中身捨てたら…乾、怒るだろうなぁ…。」
でも…
「飲まされたら、かなり、ヤバイんだろうなぁ…。」
毎回毎回彼は、元気になるー、とか、精がつくー、とか、スタミナがつくー、とか(あ、全部同じ意味か…)言っては独自のドリンクを作って俺たちに罰ゲームとして飲ませるけれど…
彼は実際に自分の作った代物を飲んだことがあるのだろうか…?
乾特製野菜汁(略して乾汁)シリーズに始まり、今では青酢やペナル茶(ティー)、粉悪秘胃(コーヒー)、甲羅(コーラ)…等といったレパートリーが増えている。
その毒牙に、俺たち青学テニス部だけではなく、他校のテニス部員たちもかかっている。
倒れる者、汁を吐き出す者、人に見せられないような顔をする者…
あれは…ただの汁じゃない!!
そして、今…
これが無くなれば、少なくとも部員数名は助かる。
でも、あんな顔して頼まれたわけだし、それに何より俺たちの為にと作ってくれているわけだし、乾の好意を無駄にするようなことは…
この汁をどうするかで悩んでいる。かなり。
何となく水筒の口に手を置く。
クルリと回せば、簡単に蓋が空いた。
…部員たちの英雄となるか、乾からの信頼と好意を大切にするか…
グダグダと悩んでいた
その時
「オーッス!!」
「!!」
バッシャァ!!!!
不意に乱暴に開かれた部室の扉と、入ってきた人物の大きな声に驚いた俺は、思わず後ずさり、運悪く机にぶつかってしまい、
なんと、水筒の中身を目の前の人物…愛する恋人である英二にぶっかけてしまった。
「ぅわぁっっ!!な、な、ななな何コレ!?」
「あっ!!えーじ?!ご、ごめん!!」
「えっ…何この色っていうか、何この臭いー!!ふぇっ…くちゃい…。」
「えーじ、それ実は新作のいぬ…」
新作の乾汁だと思うから、シャワー浴びておいでと、言おうと思ったまさにその時。
英二の体が大きく傾き、咄嗟に伸ばした俺の両手に英二の体重がのし掛かってきた。
「…えーじ!?」
たお…、れた…?
そう、俺の頭が認識するのに十数秒、ぐったりする英二の体を揺さぶり始めるまでに数秒かかった。
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