砂時計

□001
1ページ/5ページ


「誰だ、貴様は」

男の声(英語)が聞こえたので、目を開けてみる。
時間は、ちょうど昼ぐらいだろうか。
太陽の陽射しが蒼空の目を突き刺す。



『・・・?』



それだけならまだいい。
しかし、どうしても納得のいかないことがひとつ。
都会のビルの屋上から飛び降りたのに、ここは都会とは言えない、深い森の中だった。



私は死んだはずだ。
自分で殺したから。
ここは・・・死後の世界?
・・・・・・そんなもの、あるわけ無いし。



「もう一度聞く。貴様は誰だ」


風景の変化に驚いていて、声の男の存在を忘れていた。
目の前には、髪の長い美形な男が、日本刀を蒼空の喉すれすれのところに当てていた。

初対面なのに、失礼な男だな。
私はこれでも女だよ。



『誰でもいいでしょ。それより、ここは何処?』
「・・・貴様、どこから来た」



は?
どこって、XX区のXXビルの屋上。
なーんて細かいこと言うわけないでしょ。



『日本』



この男、日本人のくせにわざと英語を喋るから、日本語で言ってやる。



「どうやって来た」
『・・・は?』


男が日本語で返す。
男は眉をひそめて、日本刀を握る手に力を入れる。


「日本は今、鎖国中だ。来れるはずがねぇ・・・。どうやって来た」



・・・・・・・・・・・・はい?


あなた、今なんて言いました?
鎖国・・・
さこく・・・
サコク・・・

鎖国ーッ!!?



『な、何言ってんの?鎖国なんて、150年以上昔に開国してるよ』
「この状況で嘘つくとはいい度胸だな」

日本刀が、更に近付けられる。

『嘘じゃない!昔ペリーが日本に来て、開国させられたでしょ!?』




「貴様・・・さっきから何言ってんだよ。150年以上昔に開国してる?んな話、ありえっかよ」
『あなたこそ何なの?江戸時代の人みたいにさ。今は21世紀だよ?ちゃんと現実みなよ』


何この男。
ここまで話の通じない人っている?
この時代に武士気取りなわけ?
頭どうかしてんじゃないの。


「ふざけるな。今は19世紀だ」
『・・・・・・は?』
「そしてここはイギリスだ」


・・・駄目だこの人、頭おかしいんだ。
かわいそうだから、今あったことを説明してあげなきゃ。



『私は今、ビルの屋上から飛び降りたわけ。そしたら君の言う、19世紀のイギリスにいるんだって。おかしいでしょ?』
「飛び降りたって、なんの為にだよ」
『自殺以外で飛び降りるほど無謀じゃない』
「貴様・・死にたいのか」
『死にたいって言うか・・生きたいって思えないだけ』
「・・・」
『だから、ここが19世紀なわけ無いの。分かる?』


男は、納得いかないようだが、蒼空は害のない人間だと判断したのか、日本刀を鞘に納める。


「・・・来い」


男に腕を掴まれて、森の中を歩いていく。
少し歩いた先には、なにやらとてつもなく不気味な建物があった。
男は迷うことなく建物に向かって歩いて行く。


・・・って、そういえば、まだこの人の名前聞いて無いし。

『名前、蒼空だから。18歳ね。・・・あなたは?』
「・・・神田だ。・・・俺も18だ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]