報復

□カンタレラ
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『それ、飲まない方が良いよ。毒が入ってる・・・カンタレラだね』


それは、俺とアイツの初対面の時のこと
強制的に参加させられたパーティーで、俺は会場の端の方で壁に寄りかかっていた
その時、目の前を通りかかった女が、振り返って俺の目を見て言った

「・・・」
『信じなくていいよ。・・・聞いといて、損は無いと思ったから』
「・・・お前は誰だ」
『名も無いフリーの殺し屋よ』

それだけ言って、女は俺に背を向け人込みに消えていった

少し離れたところに水槽があったから、そこにグラスを傾ける
溶け込んで薄く紅くなった水の中を泳ぐ数匹の魚は、数秒後に死んで水面に浮いた




『ザンザス、用ってなに?』
部下に蒼空を呼んでくるように言いつけてから軽く1時間が経ってからやっと姿を現した蒼空
心底面倒くさそうにドアを閉め、かなり俺から離れたところに立つ
「・・・こっちへ来い」
『任務?』
「いいから来い」
『任務じゃないならもう帰るよ』

あの時の女をヴァリアーに入隊させてそろそろ10年になる
危険な毒の収集家で、毒殺を得意としている
ちょうどゴーラ・モスカが壊れて雲の幹部の席が開いた頃、蒼空を雲の幹部におさめた
・・・が、ムカつく程に可愛くない女だ
今まで俺にそんな口聞く女はいなかったし、むしろ俺に取り入ろうとするヤツしか相手にしたことがなかった

しかも、パーティーの日には西洋人に見えたが実は日本人だったという、かなりの化け猫
そんでもって、沢田んとこの雲の守護者の姉だったという

部屋を出て行こうとする蒼空を制する為、銃でドアノブを打ち壊す

『・・・危ないよ』
「用があると言っただろう」
『ボスの用は私に任務を与えることであって、それ以外で関わるつもりは無い』
「カッ消すぞ」
『ワォ、横暴だね。でも、悪いけど今日はもう予定は入ってるんだ。じゃぁね』
「何のだよ」
『教える筋合いは無い。あくまでザンザスは私の職場の上司なだけだし、それが気に食わないなら追い出すなり殺すなりすればいい』

仕事に関しては、コイツはかなりの腕だし俺も心置きなく背中を預けられるやつだ
だがコイツが何を考えているかは10年の付き合いがあるが未だによく分からねぇ

「ふんっ・・・てめぇは俺の元から逃がしてやらねぇし殺してもやらねぇよ」
『あ、そう』
蒼空は右足を上げてドアを蹴破ろうとする
「今日、ボンゴレ主催のパーティーがある。俺のパートナー兼護衛としてついて来い」
『悪いけど、そのことでもう先約がいるの』
「・・・先約?」
『ひと月前からね。・・・最愛の弟』
「なんだと?」
『こっちの世界で私と恭弥が姉弟だと知る人って少ないからね。恭弥も私も、特定の人間に縛られるのは嫌いだから、パートナーが必要なときはこうするのが一番だ』
「お前がそう思ってるだけで、アイツはそれだけじゃねぇかもな」
『私達姉弟のことに首を突っ込まないで。・・・私はもう行くよ』
「行くな」
『・・・もう、迎えに来たみたいだよ。外が騒がしい』
「部下が止めてる」
『だから私から行く』
「俺と一緒に来い」
『ザンザスは女なんてより取り見取りでしょ。私には恭弥だけ。昔からずっと』
「それは僕も同じだよ」

ドアが開き、入ってきたのは雲雀恭弥
・・・カス共は何やってんだ、使えねぇ
そういや今は幹部のほとんどが任務に出ている
レヴィとルッスーリアは残ってたはずだが・・・止めきれなかったのかよ

「何の話をしていたの」
「うちの幹部を私用で使うんじゃねぇ。使いたきゃ沢田から俺を通せ」
「沢田綱吉からの連絡を拒否してるのはキミだろう。それに、僕は蒼空を使ったりしないよ。ただ一緒にいたいから誘っただけの話さ」
「はっ、いい年してシスコンにブラコンかよ」
なんだこいつら、姉弟でデキてんのか

『ザンザスには関係のないことだよ』
「あ?」
ムカつく女だ
手元にあった厚い本を投げつける
外してやるような親切さなんて持ち合わせちゃいねぇ
だが、片手でそれを雲雀恭弥に止められる
「おおっと、手が滑った」
「キミは気に食わないことがあると蒼空に物を投げるの」
「だったら何だよ」
「なら、こんなところに蒼空は置いておけないね」
雲雀は蒼空の服を掴んで部屋を出て行く

俺一人になった部屋で、無性に腹が立って机を蹴り飛ばした
机はひっくり返り、書類は宙を舞う
こういうときに限ってあのカス鮫はいねぇ
当たり所の無い怒りは増幅するばかりだ

いつだってそうだ
雲属性の蒼空は俺の感情を無駄に増幅させる
大半は怒りで、残りはワケの分からないモヤモヤ
その、ワケがわからないところに腹が立つ悪循環

「ボスどうかしたの?すっげー機嫌悪いけど」
「蒼空センパイ関係っぽいですねー」
ちょうど任務から帰って来たベルとフラン
・・・そうだ、蒼空を取り返す方法を思いついた

「テメェ等、次の任務だ。雲雀恭弥から蒼空を奪い返せ。フランは蒼空に化けて蒼空と入れ替わってパーティーに参加。ベルは蒼空を連れ戻せ」


*  *  *


「ベルセンパーイ、蒼空センパイってこんなかんじでしたっけー?」
フランの声で顔を上げると、蒼空には似ても似つかない女がいた
「おい、それの何処が蒼空だよ」
「蒼空センパイって関わること少ないから顔覚えて無いんですー」
「嘘つけ。テメェは蒼空を気に入ってるの知ってんだぞ」
「えー、ミーはあんな素直じゃ無い人大っ嫌いですよー」
「よく目で追ってるくせに」
「・・・でもー、ミーはやっぱ嫌いですー。自分の気持ちに逆らって何がしたいんでしょーね」
「お前が素直で正直すぎんだよ」
「ベルセンパイに言われたくないですー」

「お前、蒼空が最も好む劇薬知ってるか?」
「知りませんよー。毒の違いすらわかりませんしー」
「ししっ、アイツはカンタレラって劇薬をよく使うんだよ。ボルジア家って聞いた事あるだろ?カンタレラはボルジア秘伝の劇薬なんだよ」
「ボルジアっていったらチェーザレとルクレチアの近親相姦の話が有名ですよねー」
「ししっ、よく知ってんじゃん」
「それがどうかしたんですかー?」
「蒼空と雲雀恭弥とカンタレラの関係。なんか面白くね?」
「蒼空センパイと雲雀恭弥ってそう言う関係なんですかー?」
「だっからそれを探るんじゃん」

・・・俺は兄弟仲が超悪かったから、あーゆーのって珍しくて面白い

「いいからさっさと蒼空に化けろ」


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