報復

□この身が朽ちようと、こころだけは
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私にはひとりの母と、4人の父親がいた
男にだらしなかった母親はいつも違う男を連れていたけど主にその4人がよく家に来ていたし、皆が父親を名乗っていたから結局自分の本当の父は分からなかったし、母親本人でさえ分かっていなかった
母親は食事もろくに用意しなかったし、病気になっても看病された記憶なんてただの1度も無い
そればかりか、暴力を振るわれ肉体的にも精神的にも傷つけられた

4人の父親のうち、一人だけ優しくしてくれる人がいた
私が3歳の頃、その人は私を連れて男手ひとりで育てようとしてくれたけど、数日後には母親に見つかり殺された
母親は警察に捕まりあとの3人の父親の消息は不明

私は孤児院に引き取られ、4歳の頃に子供に恵まれなかった雲雀夫妻に引き取られた
優しく育てられ、それなりに喜怒哀楽の感情もあったような気もする
それから3年後、雲雀夫妻に子供ができた
途端に私の存在は不要なものとなった
世間体の問題もあって、孤児院に返すことは無かったし直接私には言わなかったけど陰で私をどうするか話していたのは知っている
雲雀夫妻がくれた愛情に慣れ始めていた私には、実母に虐待されたことよりもそっちの方がショックは大きかった
それでもやっぱり雲雀夫妻を嫌いになれなくて、どうか幸せになって欲しいと幼いながらに本気で願った
・・・まだ生まれてきていないキョウダイに嫉妬もしたけど

恭弥が生まれたとき、同時に恭弥の母は死んだ
途端に、父親は恭弥を邪険にした
あれほど望んだ子を、一瞬で死神と呼ぶようになった
その代わり、私をまた可愛がるようになった
恭弥を傷つけるために、わざと私を贔屓した
私が本当は血が繋がっていないことは隠していたし、私も口止めされていた

恭弥の世話は、ほとんど私が一人でやった
1年間世話になった孤児院のスタッフの人に色々教えて貰いながら、嫉妬していた弟を可愛がった
人に邪険にされることの寂しさや悲しさを知っていたから
・・・違う、私にとって恭弥は同じ境遇になったから、仲間が欲しかった
世話をしている、優越感に浸っていた
恭弥は私がいないと生きていけないんだよね、まだ言葉を喋れない恭弥によくそう言っていた
誰かの役に立って、存在理由が欲しかった
誰かを傷つけるために存在しているのは嫌だった

私が12歳の頃、あまりに恭弥を可愛がる私をいつしか疎ましいと思っていた父親がキレた
恭弥が寝た後、嫌がる私を犯した
最初はただストレス発散が目的だったのが、それを境に幼女を犯すことにハマった彼はほぼ毎晩私の部屋に訪れた
叫びたくても、恭弥にこんなところを見られたくなくて決して声を上げなかった
12歳で、私の感情の半分は死んだ
恭弥の前でだけは、どんなに苦しいことがあった後でも笑った
無理してたつもりは無い
恭弥が大好きだったし、おかげで感情を無くさないで自分を保てたから
自分が生かしたつもりだった恭弥に、私は生かされた

3年後、私が15歳、恭弥が8歳のある日、ついにその現場は恭弥に見つかってしまった
父親がいない夜はよく私の部屋に来て一緒に寝ていたから
あの日は帰って来ないはずだったのに、突然夜中に帰ってきてそのまま乱暴に私を抱いた
かなり酒臭くて、イライラしていた
そんなところを、恭弥は目撃してしまった
まだ男女のいろはも知らない幼い子が、全裸の姉と父親が身体を重ねているところを

私はその時泣いていて、そんな私の腕をベッドに縛り付けられて口を手で塞がれていた
その行為が何なのかを知らなくても、父親が姉を苦しめていることは一目瞭然だった
恭弥は父親に飛び掛り、小さな身体で何回りも大きい大人の男を倒した
私を3年間苦しめた男はあっけなく死んだ

父親にどんな仕打ちを受けても泣かなかった恭弥は、私を抱きしめて声を上げて泣いた
それが、恭弥の流した最初で最後の涙

それからは、あっと言う間だった
驚くほどのスピードで強くなっていく恭弥
並盛で恭弥の名前を知らない人間はいない

そんな恭弥の存在は恐れられるだけじゃなく、反感を買うことも多かったから私も強くならなきゃと思った
でも恭弥はそれを嫌がったから、私は恭弥にバレないような方法を考えた
それが、毒殺だった
劇薬を一度使った私は、それ以来毒の魅力に惹かれた


リング争奪戦のあった頃
恭弥がキャバッローネの10代目と修行に出ている期間、私は門外顧問からボンゴレのことを聞き、ボンゴレファミリーに入らないかと勧誘された
束縛が嫌いな私は、フリーでやりたいから断った
私よりずっと強い恭弥は私の助けなんか必要ないだろうと思ったけど、影でサポートしたかったから

沢田側が次期ボンゴレだと決まり、恭弥が雲の守護者に決まってからは、私は単独でイタリアに飛んだ
名を名乗らないフリーの殺し屋だった私は「ルクレチア」と呼ばれるようになっていた
カンタレラを作り出したイタリアの貴族、ボルジア家の娘の名前だ

そして、ザンザスと出会ったパーティー
恭弥の命を狙った集団のボスとは知らずうっかり命を救ってしまった

パーティーが終わった数日後、匿名で依頼された仕事に出たらその先にはパーティー会場で命を救った男と銀髪の男がいた
車に連れ込まれ、銀髪の男に・・・スクアーロに、自分たちがヴァリアーだと聞かされた
そのままヴァリアーに強制的に連行され、この場所に同じ様に拘束された

ザンザスは滅多に現れなかった
現れても会話などほぼ皆無で、ハードなセックスをして気が済んだら出て行く
ただそれだけ
食事などの世話はスクアーロにされていた
本来こんな場所に風呂場は無いが、ザンザスの汚い女とヤりたくないとかいう事情で風呂は入れさせてもらえた
常にスクアーロにヴァリアーに入れと説得され続けた
最初は何を言われても口を開かなかったけど、少しずつ会話をするようになった
なんて言っても、聞いてもいないのに自分は剣帝を倒しただとかの自慢話ばかりだったけど、退屈はしなかった
少しずつ、話に相槌を入れるようになったし、3ヶ月くらい経った頃には自分からも少し話しかけるようになった
そんなある日、ひとつだけずっと気になっていたことを聞いてみた

あの男は、どうしてあんな目をするの

怒った目をしてるのに、偉そうなのに、なにがあんなに悲しいの

そう言った私を、スクアーロは驚いた顔をしてから笑って私の頭をグシャグシャにした
・・・アイツが、意地でもお前を傍に置いておきたいわけだ
スクアーロはザンザスの過去を話し始めた

それから3日後、イライラしたザンザスがまた私のところに来た
以前までとは違う印象があった
どこか、私と重なって見えたと同時に、私とは真逆な部分も見えた

育った境遇は、少し似ている
親のエゴで、別の人間に育てられたこと
そしてその後の「裏切り」
9代目が裏切ったわけじゃ無いのは分かる
けど、ザンザスの気持ちを考えれば、裏切られたと思うのは当然のことで

真逆の部分なんて、言うまでもない
ただ、ザンザスの悲しさが胸につっかかって、気付いたらヴァリアーに入ると言っていた

私を抱いて、気が楽になるならこれからもそうすればいい
でもそれだけなのは流石にプライドが許さないから、私をキミのもとで働かせてよ

ザンザスは私が言ったとおり、イライラすれば私を容赦なく痛めつけたし、私に腹を立てたら物は投げるし殴るし首を絞めてくる
その目の90%以上は憎悪なのに、残りは悲しさと1%以下の躊躇
何を躊躇うのか分からなかったから、スクアーロに聞いたら自分で考えろと言われた
・・・未だに分からないけど、もうどうでもいいよ

あれから10年
ヴァリアー幹部としてザンザスのもとで働いてきた
ザンザスに不満がある訳では無いけど、ザンザスのもとにいることに嫌気がさした
私のプライベートなことまで入り込んでくるし、束縛も多くなってきている
基本的になんでも無関心な私は、群れることと束縛は大嫌いなのに
恭弥以外の人と関わるつもりは無いのに


「・・・なんでボスがお前を束縛するかマジでわかんねぇの?」
『私が使えるからでしょ。ヴァリアーに、毒に詳しいのは私くらいだからね』
「つーかお前、ボスのことが好きなんだろ?話聞いてて分かった。お前が雲雀とボスを同じ目で見る理由」
『・・・』
「お前、自分と同じだったり似た境遇で育った雲雀やボスに仲間意識を持ってんだよ。スクアーロはボスの怒りに惹かれ、蒼空は悲しさに惹かれた。捨て身になってまでボスの精神安定剤になろうとするのはボスの悲しさが痛いほどにわかるからだろ?」
『・・・・・・私がやってることはただの自己満だよ』
「あっそ。そう思いたいならそう思っとけよ。馬鹿女」
『もう、馬鹿でもなんでもいいよ・・・』

蒼空は座ったまま横に体を傾け、冷たいコンクリートの床に寝そべる
『もう帰って』
「まだ全部話聞いてねぇし。結局、雲雀とはどういう関係なんだよ」
『・・・恭弥が12歳の頃、初めてセックスした。その前から恭弥は私を愛してくれたし、私も恭弥が好きだった・・・トラウマだった私を、本当に優しくしてくれた。それは今でも、変わらない』
「ししっ、あの雲雀がねぇ」
『それだけじゃない。私が嫌がることは絶対にしない』
「だろうね。そうでもなけりゃとっくにヴァリアーから連れ出されてる。お前がここに残ってんのは自分の意志だろ?」
『私がザンザスの生き人形だからだよ』
「・・・馬鹿女」
『何だっていいよ・・・もう、疲れた』
「死ぬなよ」
『死んでるのに疲れるのは、死に底無いなのかな・・・』
「はっ、何言ってんだよ」
『何が』
「当たり前じゃん。俺死人と喋ったりしねぇよ」

コイツの考え方や価値観は理解できねぇけど、気付いて無いだけで心も普通に生きてんじゃん

『・・・そう。でも、生きることは辛いから、ヴァリアーにいる私は死んでおく』
「ならどこで生きるんだよ」
『決まってるじゃん、恭弥の前だけだよ』


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