夢舞台
□神秘の青玉
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中世の海に、とても評判の悪い海賊一派がいました
海賊の頭である船長は、望んだものは何でも手に入れてきました
お金も剣も宝石も…
価値ある物、宝と名の付く物、優秀な人材として使えそうならば人ですら欲し、そして彼はその欲したもの全てを手に入れ、彼が狙った獲物で盗めないものはないと云われる程でした
けれど、彼はそれでは満足出来ず、今日もまた、まるで憂さ晴らしでもするかのごとく気紛れに一つの船を襲ったのでした…
「ハオ様」
「ん〜?」
変わった髭面をした牧師風の男が、自分よりいくらか小さな背丈の少年に恭しく敬礼して声を掛けた。
呼ばれた少年は海に向けていた視線をそのままに、まるで興味がないような気のない返事をした。
「先程の船との戦果ですが…」
「ああ…。
あんな小さな船だ。大した物もなかっただろ?」
「それが…」
彼にしては珍しく渋った物言いに、ハオと呼ばれた少年はようやく視線を彼に向けた。
「何だい?何の戦利品もなかったくらいなら僕も予想している。言ってみろよ」
「実は…」
途切れ途切れに紡がれる言葉からハオは大方の話を聞いた。
先程偶然船長であるハオの目に留まり、気紛れに襲われた船は、実はただの一般人の船ではなかったのだ。
「奴隷商人…?」
「はい、どうやら異国の、それも身寄りのない娘を売りさばきに行く途中だったらしく…」
「ふぅん…。そいつらどうした?」
「身の程知らずと言いますか命知らずと言いますか。花組にその容姿なら高く買ってもらえるなどと話を持ち掛けまして…」
その先は聞かずともハオにも分かった。
花組は年端のいかぬ少女達とはいえ、ハオ自らが選んだ立派な海賊の一員だ。
そんじょそこらの男共より遥かに強く、加えて気に入らない者は顔色一つ変えずに容赦なく亡き者にする事が出来る。
哀れにもそんな彼女達に人身売買の話を持ち掛け、機嫌を損ねた奴隷商人達の末路はまさに海の藻屑だった。
「…で、その娘の方は?」
「今は花組が様子を見ておりますが、言葉が解らぬのか先程から一言も口を利きません。如何致しましょう」
「異国の娘、ね…。少し興味があるな。
…いいだろう、僕の部屋へ連れておいで。それで処遇を決めてやろう。退屈しのぎくらいにはなりそうだ」
くつくつと小さく笑いながら自分の部屋へ向かう為に歩きだしたハオの姿が見えなくなってから、一人残された男・ラキストは小さなため息をついた。
主の気紛れはいつもの事であり、今更それに嫌悪する事もうんざりする事もないが、主の飢えと渇きに満ちた心は常に何かしらの刺激を求めていた。
故に今回のように大した獲物でもないと分かりきっている船を襲う事もしばしばだった。
しかしそれで主の気が少しでも晴れるのならば安いものだとラキストは思っていた。
問題はむしろ奴隷の娘の方だ。
運良く主の眼鏡にかなうか、うまく取り入れられればそれなりの待遇にはなろうが、もし花組のように機嫌を損ねるような事があれば…。
しかし、どちらにしても主の気紛れによりその場かぎりで打ち棄てられてしまう可能性も十二分にある。
年端もいかぬ者が自らの意志を持ってこの世に生きる為には強い力が必要なのだ。
しかし、ラキストが見た限りではその娘にそんな力があるとは思えなかった。
花組と変わらぬ年齢だとしても目を見れば解る。
娘の瞳は闇を知らず、周りの恩恵あってこそ生き長らえてきた無垢で無知な子供のそれだった。
果たしてそんな娘がどんな運命を辿るのか、ラキストは少なからず同情を覚え、主に差し出すべくその娘を迎えに歩きだした。