夢舞台

□桜舞い散る季節
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冬を越え、寝入ってしまいそうなほどにぽかぽかと暖かい陽気が漂う春の、ある日の事…。




『………(ぼ〜〜〜…)』



とある小高い丘にたった一本だけ…


見事に満開に咲き誇る桜の樹にもたれかかりながら、シオンは過ぎていく時間も忘れ、ひらひらと落ちていく花びらをただ無心に見つめていた。



『………不思議』



「へぇ、何がだい?」



ふと洩らしたいつもの独り言のつもりだったのに返事が返ってきた事に驚き、シオンは桜の樹にもたれかかっていた体を起こして辺りを見回した。



しかし、シオンがキョロキョロと辺りを見回してもひとっ子一人見当たらず、恐る恐る桜の樹の反対側を覗くも人の姿も、ましてや気配すら感じられなかった。



『………誰もいない…。
Σはっ!まさか桜の樹が…』



シオンは恐る恐る桜の樹を見上げ、ジーッと疑(うたぐ)るような視線で根元まで見下ろした。



「ハハハッ、そんなわけないだろう?相変わらずシオンは面白い事を考えるね」



『(この声…まさか…)ハオ?』



「正解♪」



嬉しそうな声がしたかと思うと、ガサッという音のすぐ後に、ハオがシオンの隣に僅かな桜の花びらと共にふわりと舞い降りた。



『わっ!?Σ(゚ノ゚)ノ』



シオンは両手を上げて、驚いたと言うよりは引いた感じでハオから離れた。



「…そこまで驚かなくても…」



あまりに激しいシオンのリアクションに、「ちょっと傷付くなぁ…」と思いながらもハオは呆れたように呟いた。



『だ、だって…さっきまで私一人だけだって思ってたから…。
っていうか、ハオ、いつからいたの?』



「ん…?そうだなぁ…5分くらい前かな?」



『5分前…?じゃあ私も…』



と言いかけて、シオンは自分の腕時計を見て知った時間に目を丸くした。



『えええっ!!?』



シオンがいたのはそれよりもずっとずっと前からだった。



『な、なんで声掛けなかったの?』



「いや、空の散歩をしていたら偶然シオンを見つけたんだけど…あまりに熱心に…というか、真剣に桜を見てたから声掛けづらくてね。
僕が樹の上に来ても気付かないくらいだからね」



『いや、普通の時でも気付かなかったと思うし…』



「………まあ、いいけど…。
それより僕の質問には答えてくれないのかい?」



『へ…?何か言ったっけ…?』



もう忘れてしまっているシオンに、「しょうがないなぁ…」と溜め息混じりに呟いた。



「さっき不思議って言っただろう?それに対して僕が…」



『あっ…!そういえば何がって聞いてきたね!』



『忘れてた忘れてた』、とまるで悪気なく笑うシオンにハオは溜め息をつかずにはいられなかった。



「(この娘の天然ぶりにはいつも呆れるというか驚かされるな…。
まあ、類い稀な天性の素質なんだろうけど…)」



ハオの考えている事など知る由(よし)もなく、シオンは考え事をするように顎に指を当て、感慨深く桜の樹を見上げた。



『ええっと、ねぇ…この樹、道に迷ってたら今日偶然見つけたんだけど…寄り添ってみたらあったかいっていうか、何か懐かしい感じがして…。それで不思議だなぁって思ってつい口に出しちゃったの。
まあつい口に出しちゃうのはいつもの事だけどね』



「………」



『なんでかな…?
…もしかして、記憶を失う前にここに来た事があるのかな?』



「………ねぇ、シオン。こんな話…知ってるかい?」



『ん…?』
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