夢舞台
□たまには…
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『あっ…!』
「どうしたんだい、シオン?」
『見て見て!ハオ!』
シオンはいくらか興奮した様子でハオに手の内の器を見せた。
『茶柱立ってる♪』
「本当だね」
シオンの両手に包まれた、お茶を注がれた湯呑みには自らの存在を主張するように浮かぶ茶柱があった。
「きっといい事が起きるよ」
『わ〜い♪』
ハオとシオン…。
恋人同士でもある彼らは東京の無人島で葉達のチームにあてがわれた宿舎の縁側で、のどかな午後のひとときを楽しんでいた…。
お茶菓子に緑茶という平凡で素朴なティータイムではあったが、二人にとっては十分で、お互いとても幸せそうに微笑みあっていた。
本当は喫茶店でも行こうと最初に提案したシオンの意見を、ハオは悪くはないと言いながらもシオンの淹れたものを強く望んだ。
シオンは少しも嫌がらずにそれを承諾した。
霊視の力故に人気の多い場所を嫌うハオを気遣って、というのも一つの理由だが、シオンとしても久しぶりに二人きりでのんびり過ごしたいと思ったからだった。
「でも本当に良かったのかい?
アンナがいないからって僕を呼んで」
『ん?怒られたかったの?』
「ハハハ、まさか。むしろ邪魔者がいなくて僕としては好都合なんだ」
いつもは葉の修業のメニューだけを組んで、あとは基本的ゴロゴロしているアンナが今日は珍しくまん太とたまおも連れ立って自ら修業を指導しに行っている。
シオンもほぼ強制的に誘われたが、家事を理由に丁重に断った。
この時シオンは既に家事を早めに終わらせたらハオを誘おうと考えていた。
アンナがいようがいまいがハオは何の前触れもなくひょっこり現れるのが常ではあるが、たまには追い出されずにゆっくり過ごしてみたいとずっと思っていたのだった。
『また機会があったら、今度はコーヒー淹れてあげるね』
「それは楽しみだ。シオンが作るものは何だって特別美味しいからね。
お茶だってどうしてこんなに違うんだろうね」
『ふふっ、だってそれは私がハオの為だけに淹れた世界に一つしかない特別なお茶だもの』
「………隠し味は僕への愛ってわけかい?」
『そっ!特別なエッセンスが入ってるの』
「そう…。それじゃあ僕もその愛に応えて…」
『ほえっ…?』
縁側に座っていたシオンはふわりと緩やかな動作でハオに押し倒された。
あまりに自然な流れにシオンは抵抗するのも忘れ、訳がわからず呆然とハオを見上げた。
「抵抗しないんだね」
『………って、何で私ハオに押し倒されてるの』
「僕が押し倒したから」
『………何でハオはいつもいつもこうやって私を押し倒すの?』
「勿論好きだからだよ」
『っ…///』
まるで割れ物に触れるかのように穏やかな手付きで頬に触れてくるハオにシオンの身体の温度が一気に上昇する。
「それにシオンがいちいち可愛い事言ってくれるからね。押し倒さずにはいられないよ」
『押し倒す以外に何か色々あると思うんだけど…///』
「フフ、どうやらこの肉体は幹久の血と遺伝子を強く受け継いでいるみたいでね。今までの身体にはない程性欲が強いんだ」
『せ、せいっ…?!///』
「シオンが原因でもあるんだけどね。シオンの言動が僕を刺激してやまないんだ」
勿論シオンに自覚があるわけもなく、それがますますハオの心をくすぐる。