夢舞台
□見えぬ鎖
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ガチャッ…
ノックもなしに無遠慮に開かれた扉。
顔を上げずともこの部屋に入る人物など一人しかいないのだが、知っていて尚顔を上げるのは、彼女がまだその人物に対して負の感情を持ち合わせていないという事だろうか。
「ただいま、シオン」
にこやかな笑顔に心底嬉しそうな声音で紡がれた少女の名。
ここまで喜びの色に満ちた表情やオーラを見たのは初めてではないかと思う程この部屋の、そしてこの建物の主であるその人物―――ハオは嬉々とした様を醸し出していた。
『……………おか、えり…』
再びシオンが頭を下げ、真逆な無感情な様で返事を返してもその人物は彼女が応えただけでも満足らしく、笑顔を崩す事なく近付いてきた。
「フフ、またそんな壁にもたれかかって…。
そこ、そんなに気に入った?」
足音がすぐ側で止み、少女が答える間もなく彼女の小さな身体は軽々と持ち上げられた。
元より彼女は答える気がなかったのかもしれない。
急に抱き上げられた事にも驚かず、その顔色を変えないまま抱き上げた彼を見ようともしない。
その様はまるで人形のよう…。
「でも駄目だよ。いつまでもそんな所にいたら風邪をひく」
『………ベッドよりはいい…』
「おやおや…」
返答に気分を害した様子はなく、相反する表情を持つ二人が視線を交わす事もなく…
「でも僕は、シオンにはそこにいてほしいな」
ハオが歩きだし、シオンが下ろされたのはつい先程拒絶したばかりのベッドの上。
それでも彼女は嫌がりもせず、ハオにされるがままにそこに在るだけであった。
「………今日、葉達に会ったよ」
反応らしい反応をしなかった彼女がその言葉に初めてびくりと身体を震わせた。
彼はその反応にすら満足げに微笑み
「シオンを返せってうるさくてさ。もう少しで殺してしまいそうだったよ」
何でもない事のように話していく内に彼女の震えはますますひどくなり、それに伴うように彼の口角が吊り上がる。
「今はまだ本気じゃないけど、あいつらがもっと強くなって本気で僕に向かってきたら、僕も正当防衛であいつらを殺してしま…」
『やめてっっ!!!』
痛々しい程の叫びが部屋に響き渡り、少女は顔を歪ませ初めて彼を見上げて視線を交わした。
『…お願い…どんな事になっても…みんなは殺さないで…』
着ているマントを震える手で握り締めながら必死に懇願する彼女に彼はにんまりと微笑んだ。
「フフ、勿論さ。
他でもないシオンとの約束だからね」
『………』
「僕はシャーマンキングになるまで誰も殺さない。
その代わり…シオンは僕の元に居続ける。そういう約束だからね」
いとおしげに頬を撫でながら陶酔しきったその顔にシオンは狂気を見た気がした。
「でもさ…どんな事になってもっていうのは頂けないね。
僕が本当に死にかけたらどうするんだい?
まあ、シオンはここから逃げ出せて葉達の所に帰れるんだからむしろその方がいいか」
『…ダメ…嫌…』
今にも泣き出しそうに歪んだシオンの目や表情を見て、慰めるように胸に添えられた手を握り締める。
「ん…?」
『ハオは……死んじゃダメなの…。死んじゃ…いや…』
「何故?葉達を餌に君を脅してこんな所に閉じ込め、君の好きな自由を奪った男だよ?
それに…」
ふわりと風が靡いたように緩やかに上半身を押し倒し、ハオはその小さな身体に覆い被さった。