夢舞台
□HAPPY TIME
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キーンコーンカーンコーン…
聞き慣れたチャイムが鳴り響くや否や辺りは一気に騒がしくなり、先程まで一人で喋っていた教師の言葉などもう耳に入らず、机の上に広げていた教材を無造作に鞄の中へ詰め込みさっさと出ていく生徒や、仲の良いクラスメイトとおしゃべりする生徒が大半だった。
ガタッ…
「さて、と…」
それは僕も例外ではなく、見てもいなかった教科書を閉じて鞄にしまい込む。
授業や進路なんてものよりもっと大事なものがある。
それを求めて席を立ち、教室の後ろの扉から出ようとした時だった…。
「あ、あの…!ハオ…君…!///」
馴れ馴れしくも下の名前で呼び止められ、またかと僕は面倒くさかったが仕方なく後ろを振り返った。
顔も名前も覚えていないが、多分同じクラスの奴だろう。
もじもじとして視線を合わせようとしない女の子と、その付き添いであろう子が斜め後ろでその子をこづいていた。
「何」
「えっ、えと…あの……その…///」
頬を染め上げて言いづらそうにしているその子は下を向いたままなかなか切り出そうとしない。
「早くしてくれないかな?僕も暇じゃないんだけど」
不機嫌さを隠さずに言ってやれば、女の子は泣きそうになりながらも後ろで組んでいた両手をおずおずと僕の前に差し出した。
「あ、あのっ…!こ、これ……う、受け取って下さいっ!!///」
彼女の手にはシンプルな白い封筒…
俗に言うラブレターというやつだ。
中身を見なくても分かる。
「話はそれだけ?」
興味のない僕が踵(きびす)を返そうとしたら…
「よ、読まなくてもいいです!ただ受け取ってくれれば…!///」
そう叫ぶ彼女にため息が漏れた。
この手の告白はこの学校に入る前からもう何度も受けてきた事だ。
いい加減うんざりする。
どいつもこいつも僕の何を知っているというのか。
ただ見かけにばかり捕われて僕の中身など見ないし、知ろうともしない。
そんな奴らにいちいち付き合うなんて馬鹿げている。
でも……
足蹴にすると『彼女』が怒るんだ…。
「………本当に、中身は見ないよ」
「はっ、はいっ!!それでもいいです!///
あ、ありがとうございます…!///」
堪えていたらしい涙が零れ、彼女は友達によくやった、よく頑張ったと慰められながら自分の席に戻っていった。
「………ふぅ…」
慣れない事をするとやはり疲れる…。
取り敢えず今日受け取った何枚目か分からない手紙を鞄に押し込み、邪魔された当初の目的を果たす為に隣のクラスへ向かった。
自分でも気持ちが高揚して足早になっているのが分かる。
一年の時にはなかった、知らなかった感情に自分がどれだけ“それ”に夢中になっているか思い知らされた。
昨年は同じクラスだったから…
傍にいる事が当たり前になっていたんだ…。
だから傍を離れて初めて分かった。
その存在がどれほどの安らぎを与えてくれていたか…
自分にとってどれだけ大切なものだったのかを…。
しかし、隣の教室に目的の人物は見当たらなかった。
全く…。
僕の邪魔をしといて何が好き、だ。
自分の都合ばかりを押し付ける女はこれだから嫌だ。
こちらの都合というものを考えてほしいものだ。
「ここにいないとすると…」
思い当たる所がないわけではなく、目的の人物を捜して僕は学校を回った。