Novel

□★what he lost,what I lost
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「何してるんだいイギリス」

突然訪ねて来て、俺の家にある花瓶という花瓶に何やら黄色や白の花を生けて(突き刺して、に近いが)いたイギリスは、そこでようやく俺の存在に気づいたようだった。

「あぁアメリカ。見てわからないか?キクを供えているんだ」
「とても『供えている』ようには見えないけどね――そもそも、人の家へキクを供えてまわるなんて失礼極まりないんじゃないかい?」

墓参用の花だろう、それ。
俺が指摘すると、イギリスは何故そんな事を言われるのかがわからない、といったふうに目を見開いた。まるで、彼がその行為をすることが当然でもあるかのように。

「お前――今日が何の日か知らないのか?」

今日が何の日かって?そんなの知っているに決まってるじゃないか。今日は、俺が君からの独立の宣言をした日。他の国達はみんなプレゼントを持って来てくれたのに君はいつまで経っても来ないから、もう俺の事なんか見限ったのかと思っていた。
だから、今日こうして君に会えてとても嬉しかったのだ。

「そりゃあ、俺の誕生…」
「命日、なんだ」
「――え?」


俺の言葉を遮ってイギリスがぼそりと呟いたのは、およそ自分が考えていたのとは異なる答え。

「命日なんだ。俺が可愛がってた奴の。大切で大切で、世界で一番愛してて、ずっと守ってやるって決めてた奴の」
「イギリス…」
「なぁアメリカ、」


――俺の愛しいあの子は、アルフレッドはどうして死んでしまったんだろうな?


そうしてまた菊を花瓶に詰め込むイギリスの背中を、俺はただ呆然と見つめていた。








what he lost,
what I lost

(在ったかも知れない今、永遠に来ない未来)









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