Novel
□☆Speranza.O mera capriccio
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ヴェネチアーノに、なれればいいのに。
「イタちゃんはほんまかぁえぇなぁ!」
ほら、そう言って、奴はまた弟を抱きしめる。満面の笑みでぎゅーっと。それはもう幸せそうに。
「なぁオーストリア、頼むからこの子俺にくれへん?」
「あげませんよ」
オーストリアに一刀両断された奴はよほどショックだったのか、往生際の悪いことにもう一度泣きそうな声で懇願する。
「ええ〜!?そんなぁ、な、頼むから、な?オーストリアぁ」
「だからあげませんよ」
「じゃあせめてうちのロマーノと交換…「しませんよ」
ええ〜っ。と奴はまた嘆く。
…なんだよ、お前、そんなに弟の方がいいのかよ。
「はぁ……。それにしてもほんまに可愛いなぁヴェネチアーノは。素直やし、働き者やし」
悪かったな素直でない上に怠け者で。俺だってちょっとは働こうとしている。でも俺は弟ほど…器用じゃ、ない。
「……」
「ん?どした?ロマーノ」
無意識のうちにじっと見ていたらしい。弟を抱いたまま話しかけてくる奴にどうしようもなくムカついて、俺は「別に」と目をそらした。何が「どした?」だ。ちくしょうが。
「うちのロマーノはいっつもこんな感じや。まぁ、そこが―――な」
その時奴が呆れたような笑顔で言った言葉を、俺は知らない。こっそり、耳をふさいだから。なぜかはわからないけれど、奴が俺を否定する言葉なんて絶対に聞きたくなかったから。
イタちゃ〜ん♪と奴がまた弟をぎゅうっとした。また理由もなくイラつき始める俺の頭に、ふとした願いがよぎる。――あぁ、わかった。俺の苛つきの解消法。
今みたいに、弟を呼ぶ時のようにに、ちょっと訛った甘い声で奴が「ロマーノ」と呼んで引き寄せて、俺を抱きしめてくれたらいいんだ。
少し痛いくらいでいいから。
Speranza.O mera
capriccio
(願い。もしくはただの我儘)