Novel

□☆奇襲は失敗、返り討ち
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 何やってるんだ、俺は。
 
 もしもう一人の自分がこの場にやってきて今の自分の姿を見るようなことがあれば、きっとあまりのいたたまれなさに顔をうつむかせるに違いない、と半ば我が身を呪いながらアーサーはそう思った。じゃあやめればいいだけの話なのはよくよくわかっているのだが、この店がアーサーの通学路にあるものだからどうしたって目に付いてしまうのだ。それならその通学路を少し帰るという案も無くはないが、わざわざ「奴」のためにそんな手間をかけるということ自体が癪に障るので、絶対にやりたくない。まったくどれもこれも「奴」のせいだ、滅べ。

(やらないといけないことはわかってんだけど……)

 そんなことを思いながら目線を上げれば、その先にはあるケーキ屋の内部の様子が見える。向こうから見えないように街路樹をたてにしているためクリアにとはいかないが、それでも十分店員の表情が見て取れた。端から見たら絶対怪しまれるなと思いながら、これをはじめて気がつけば3週間が過ぎていることに気づいてアーサーはうなだれそうになった。

 きっかけは3週間前。普段間を通っていてかる時たま利用しているこのケーキ屋に、その日久々にお茶請けを買って帰ろうなんて思ったのが間違いだったのだ。あの日ケーキを買おうとごく普通に店内に入ろうとして――見つけてしまった。

 営業スマイル全開でケーキを売っている、「奴」の姿を。


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