Novel

□☆奇襲は失敗、返り討ち
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 思わず飛び下がって、街路樹から店内を覗き込んだ。色とりどりのフルーツケーキに、くるくる巻かれたモンブラン。他にもたくさんのケーキが並んだショーケースの向こうに立っているのは間違いなく

(あの野郎……だよな)

 自分と同じ高校生の「奴」が自営をしているはずがないから、おそらくバイトをしているのだろう。それも比較的最近から。…ところで。

(うちの学校、バイト禁止だろ……!!)

 更に自分の記憶が確かなら、「奴」は生徒会の副会長だったはずだ(もちろん会長は自分だ)。そんな一応は生徒の模範的存在にならなくてはならない立場の人間が堂々と放課後アルバイトとは、

(あの野郎、ぜってぇシバく……!!)

 むしろ体よく殴る口実ができていい気味だ、この俺に見つかったことを後悔しやがれともはや本来の趣旨とは若干ズレてきていることを考えながら、「奴」への制裁を誓ったのが3週間前。

 そして3週間後の今日に至っても、結局アーサーは言い出せずにいる。

 なんというか、できないのだ。学校で追求してもしらばっくれられるかもしれないし、なら現行犯でと思えばどういうわけか自分が自分の邪魔をする。普段のカークランドは生徒会長として、そして個人的にも「奴」をと捕まえ(て殴り)たいと思っているのだが、心のどこかで「奴」の邪魔をしたくないと思うアーサーがいるような、そんな感覚。

 だって、あんな風に楽しそうに働く「奴」が悪いと思う。元々菓子作りや料理が得意な「奴」のことだし、人当たりが良くて端から見ればルックスもそれなりだし、白地にとことどころ赤系のチェックが入った制服だって妙に着こなせていて、なんというか全体的に似合っているのだ。それを糾弾してやめさせてしまうのは、なんだかもったいな――

(って何考えてんだ俺!!)

 こんな妙な考えが頭をよぎるのだって元はを言えばバイトなんか始めた「奴」のせいだ、今日こそ絶対乗り込んでやる! とばっと眼前の店を睨めば、そこには

(あ? いない……?)


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