Gift
□☆ombrello
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もうずいぶん長いあいだふてくされていたせいでなかなか気がつかなかったが、知らないうちに外では雨が降っていたらしい。体にはじめついた空気がまとわりつき、地味にこちらの気を散らせる雨音も聞こえて来る。
けれど、そんなのずっと屋内に居るロマーノには関係の無いことで。雨が吹き込んでこないように窓を閉めるだけ閉めたら、あとはまたソファに転がってテレビでも見ていればいいのだ。例え、“彼”が傘を忘れて出かけていたとしても。
(…あんな奴、濡れて帰ってくりゃいいんだよチクショー……)
別にあんな奴が濡れ鼠になろうが来ていたよそ行きがダメになろうがそのあげくに風邪を引こうが、言ってみればロマーノには何の関係もないわけで、仮にあったとしてもそれは「お前風邪なんか引いたのかよ。だっせ――!!」てかなんとかそな程度のことを言ってやるくらいのことでいいのだ。
大体こうなったのも全て奴の自業自得だとロマーノは思う。せっかくこちらが今世紀最大の勇気を振り絞って「行くから空けとけよちくしょうが!!」って電話して、向こうも二つ返事でOKしたから予定通りイタリア半島から奴の家のある西のイベリア半島まではるばるやって来たと言うのに。奴ときたら着いての第一声は、
「ごめんロマーノ、上司が緊急会議するってゆうから……ちょお留守番しといてぇや!」
あんまりだ。
柄にもなくちょっと受かれていた心なんて、慌ただしく家を飛び出して行くカッターの後ろ姿を見ていたらいっぺんで飛んでしまった。「俺との約束より会議かよ」ていう言葉が喉まで出かかったけれど、言いはしなかった。言ったって何の解決にもならないし、何より絶対に格好悪いとわかっていたから。
でもムカついたのは事実。だから絶対に傘なんか届けてやらな――
(ッ!?)
ざぁっ、とまた雨足が強くなった。この分だと地面は確実にぐちゃぐちゃだろう。アスファルトで舗装されている道だって、水がたまっているかも知れない。
あーあ、服だけじゃなくて靴までずぶ濡れかよ、難儀なこったな。そういやあいつ革靴だったよな……。絶対にもう履けね―なザマーみろ。
(……。)
もう一度、窓を見遣る。降り続ける雨が執拗にガラスを叩いて、なんだか溶けたみたいに見えた。
(――今回だけだからなちくしょうが!!)
がばっ、とそれまで寝転がっていたソファから跳ね起きる。そして床に脱ぎ捨てていた履き慣れたスニーカーに乱暴に両足を突っ込むと、玄関から傘を一本引っ掴んでそのまま飛び出した。数メートル行った所で鍵を閉め忘れたことを思い出し慌てて引き返したけれど、それからしばらくして、シックながら洒落た黒い傘がマドリードの街を駆けて行った。