Q9,愛とは何か?
(注:学生パロ)
授業中違和感がして隣を見ると、妙に愉しげな蒼の双眸とぶつかった。相手が相手であったので半ば反射的に睨みつけると、彼は手近にあった紙にさらさらと何かを書いて、こちらに投げて寄越してきた。
何だよと思って開くと、そこには流暢な字で『案外早い。15秒』との言葉。どうやらターゲットをガン見して気がつくまでの時間を計って遊ぶ、アレをやっていたらしい。……授業中に。
“真面目に話を聞けよこの髭野郎”
と彼の字の下に書いて渡せば、少しの間のあと
『だって哲学なんて地味なモノ、お兄さんに似合わない』との返事。
“似合う似合わないの問題じゃねぇよ、俺は今てめぇの態度の話をしてんだ!!”
『態度態度って、授業中こんなことに全力返信してくる人に言われたくなーいっ』
“黙れこれは秩序の為の必要悪だ。というわけで今直ぐ去れ”
『え、それ酷いっ! 先生ー、カークランド君が俺の授業を受ける権利を剥奪しようとしています!』
“どうせテメー哲学やる気ねぇんだからいいだろ”
『いやぁいくら俺でも授業を放棄して定期考査を受けるのは怖すぎるから勘弁して! というかそもそもアーサーわかるの? 今回のテーマ』
「はぁ?」
思わず奇妙な声を上げてから、黒板を確認する。こいつにんなこと心配される筋合いは……
「――ぇ」
そこに書かれた主題を目にした瞬間、思わず口角が引きつった。隣ではフランシスが『な、言っただろ?』と唇だけ動かしてくる。もちろん目はムカつくくらいに笑っていて。
“……テーマがアレだからなんだってんだよ、要は教師好みの哲学者の考えを適当に引っ張り出して論文を書くって基本スタイルは同じだろ”
『お、言うねぇ。じゃ、この場合引用するのに有効な哲学者は?』
“………オルバック”
『はいそれは無神論。フッサール派の採点者にぶつかったら完全に死亡フラグだからできれば避けて通ったほうがいいと思うけど?』
“わ、わかってる!! つーかなんだよ、じゃあお前はわかんのかよアレ!?”
そう、自分でもヤケ気味に書き殴りながら黒板を指させば、フランシスは余裕を絵に描いたようにその整った唇の端を上げて笑った。
『当然。一行あれば事足りるよ』
「……どう書くんだよ」
そう尋ねた途端、いきなりフランシスがこちらの後ろ首を引き寄せ耳元にその唇を寄せた。そして、一言。
「っ!!」
瞬間、弾かれたみたいに顔を上げて体を離した。頬は自分でもわかるくらいに熱くて、たぶん、耳まで紅くなっている。フランシスの方は相変わらずめちゃくちゃ余裕そうに笑っているからそれが余計に腹がたつ。普段なら遠慮なく罵声の一つや二つ浴びせてやるところだが、授業中なのでそれもできない。だから、
“お前本気で死ねよばかぁ!!”
紙いっぱいに書かれたのは、乱れまくった照れ隠しだった。
A.俺のお前に対する感情
(アガペーでなければ慈悲でもない)
* * *
二人はリセの最終学年で、バカロレアの勉強中、といいう設定。こういうこっぱずかしい話を書くのって意外と好きだったりします←
09.06.28
杏莉
出展:夜風にまたがるニルヴァーナ様