短編
□はっぴぃばーすでい!
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12月20日。
こんな大事な日だというのに書類は気を使ってもくれない。
「ぬへー……」
「おい、変な奇声発してねえで手ぇ動かせ」
「………へーい…」
そう、今日12月20日はみなさまのご存知の通り、愛する我らの隊長が生まれた日。隊長は覚えてるかわからないけど、あたしと乱菊さんで密かに誕生日パーティを企画しているのです(えへん)!
しかし、冒頭でも言った通りこんな日に限っていつになく書類が多い。それはもうありえないくらいに。
そのせいか肝心の隊長は見事に不機嫌。
「……ったく、こんな時に松本の野郎はどこ行きやがった」
「いつも通りサボりじゃないですかー?」
「あの野郎…減給決定だ」
実は今、乱菊さんにはパーティの準備をしてもらっている。準備は交代で、あたしは午前中に一通りの準備をしてきた。おかげで午後帰ってきた時には隊長に散々怒られた。
なので本当はサボってるわけではないのです(最終的にはサボってるけど)。
「うぬぬ……」
そんなこんなでパーティの準備は順調に進んでる。しかしここで問題が一つ。
「書類が終わらなーいっ!」
今日中に書類を終わらせれるかどうか。これが一番の問題である。
パーティは今日するから意味があるのであって、書類のせいでパーティが出来なかったら元も子もない。
「…てめえが午前中サボらなけりゃ少しはマシだっただろうな」
「だってー…」
「だってじゃねえ」
「そんなこと言っても定時とっくに過ぎてるんですよ?」
あー、まじでやばいかもしんない。
そう思い始めてきた10時頃。書類の量はやっと3分の2減ってきたくらい。あと2時間で12月20日が終わってしまう。
乱菊さんもさすがに待ちくたびれているだろう。
せめて11時くらいには終わらせたい。だってやっぱり隊長の誕生日は祝いたいもの。
あたしは頬を叩いて気合を入れ直す。
「よーし!」
「………?」
そんなあたしを不思議そうな目で見ていたことは気にしない。
黙々と時間だけが過ぎていく中で、あたしの手の動きは自分でもすごいと思うくらい速かったと思う。時々気合を入れすぎて墨が机に飛んでしまったりもした。集中力も今までに最高と言ってもいい。
その集中力は書類を片付け終わるまでなんとかもってくれた。
「おわったーーー!」
ばっと時計を見ると11時を指す2本の針。なんとか間に合った(さすがあたし!)。うん、まだ大丈夫。1時間もあるじゃないか。
「ご苦労だったな」
「隊長は?」
「俺も今終わったとっこだ。こんな時間だけど何か食って帰るか?」
「あ、ちょっと待ってください!」
本当によかった。パーティもなんとか出来そうだ。
このことを乱菊さんに伝えるため伝令神機を取り出す。
プルルルルル……
プツッ
「あ、乱菊さんですか?やっと仕事終わ…〈お疲れーっ!あたしもう寝るとこだったのよー!パーティの準備はちゃんと出来てるから!じゃあおやすみー☆〉
プツッ
ツーツーツー……
(ら、乱菊さん……っ)
あたしはついガクッとうなだれる。
「…どうかしたか?」
「たいちょーぅ……」
「なんだ?」
「今日、本当は隊長の誕生日パーティをしようって乱菊さんと話をしてたんですけど……」
「!」
どうやらパーティのメンバーはあたしと隊長だけになってしまったようだ。
「あたし一人だけですけど、残り1時間の誕生日、楽しませてやろうじゃないですか!ぷれぜんとふぉーゆーです!」
あたしがそう言うと隊長はただ一言、あぁ、と穏やかに微笑んでくれた。
そんな隊長にあたしも笑顔になり、言いたかった言葉を口に出す。
「誕生日、おめでとうございます」
そして、突如唇に感じた熱。それが何か気づくのに時間はかからなかった。
真っ赤になって隊長を見ると、彼はこれまた穏やかな笑みで答えるのです。
「ありがとな、」
はっぴぃばーすでい!
(生まれてきてくれて、ありがとう!)
「残り1時間の誕生日、隣にいるのがお前でよかった」
ひっつん誕生日おめでとー!あたしは祝うよ!
もうほんと生まれてきてくれてありがとう!