spell
□夏の欠片
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夏の終わり、蝉の声が止んだ。
ぴたりと。
初めからいなかったかのように。
ひっそりと。
(さようなら)
心の中で唱える。
あんなに煩わしかった声が、とても愛おしく、
恋しく思う。
なんて理不尽な話だ。
あんなに煩いと、とても嫌っていたのに。
止んだとたん、いなくなったとたんに恋しくなるなんて。
青い空も、夏の暑い風も、皆違うものに変わっていく。
少しずつ、ゆくっりと、でも確実に変わっていく。
季節の終わり。
夏程にこんな感情が芽生える季節があるだろうか?
終わりが近づいて初めて愛おしいなんて。
あぁ、そうか、
やっと解った。
そうだ、夏は恋にとても似ている。